年に1回の社会保険料の見直し、【算定基礎届】の季節です。毎年4月・5月・6月の報酬を書き出して7月1日から10日に算定基礎届を提出しなければなりません。
この3ヶ月の報酬に基づいて、【標準報酬月額】が決めなおされます。
重要ポイント
社会保険料は【標準報酬月額】で決定されます。
4・5・6月の給与総額の平均を標準報酬月額表に当てはめて【標準報酬月額】を決定し、大きな変更がない限りほぼ1年固定されます。この仕組みが分かれば、社会保険料の削減方法が見えてきます。
標準報酬月額は給与そのものではない
- 3ヶ月平均で月額195千円以上210千円未満の報酬(賃金)に対応する標準報酬月額は20万円。
- 290千円以上310千円未満なら30万円。
健康保険・厚生年金保険の保険料は標準報酬月額で決まりますが、一つの標準報酬月額が対応する報酬の金額には幅があり、その幅は賃金が高いほど広くなっています。
- 報酬月額には、基本給・諸手当のほかに残業手当も含む。
毎月変動がある残業手当ですが、標準報酬月額はこれを含めて決定します。通勤手当も、課税非課税に関係なく含めなければなりません。
標準報酬月額の決定時期
標準報酬月額は次の3つの時期に決定します。
(1) 資格取得時決定
労働者の入社時に約定した報酬(給与・通勤手当と見込まれる残業手当を含めた金額)で決定されます。
(2) 定時決定
以後退職に至るまで、毎年7月1日の直前3ヶ月間に従業員へ支払った給与の総額をその期間の月数で割った額を報酬月額として標準報酬月額が決定(改定)されます(※給与支払の基礎となった日数が17日(パート:15日)未満である月は対象から除いて計算し、3ヶ月とも日数未満となる場合には改定はなく、その場合には従前の決定額が引き続き適用されます)。
(3) 随時改定(昇給・降級があったとき)
継続した3ヶ月間に支払った給与の総額を3で割った額が、元の報酬月額に比べて著しい差(標準報酬月額保険料額表の等級に2等級以上の差)が生じたときに決定されます。
この仕組みが分かれば・・・
節約のテクニック ① 4・5・6月の残業を減らす
春から夏にかけて忙しく、冬は忙しくない業種の会社にはつらい定時決定ですが、変形労働時間制を活用するなどして、この3ヶ月の残業を削減できれば給与総額が減るため、保険料が節約できます。
② 昇給を7月にして
4月昇給だとその年の9月から保険料が高くなりますが、7月昇給だと、改定後の保険料の適用は翌年の9月からになります。
定時昇給を定めている就業規則は事前に変更しておくこと。また、労働者には十分説明しておく必要があります。
③ 標準報酬月額の【幅】で
209,000円の人が4月に1,000円昇給して210,000円になった・・・嬉しいはずですが、210千円という標準報酬月額はないので標準報酬月額は一気に220千円になります。すると・・・
賃金 | 標準報酬月額 | 社会保険料 | 手取り | |
---|---|---|---|---|
健康保険 | 厚生年金 | |||
209,000 | 200,000 | 8,200 | 15,350 | 185,450 |
210,000 | 220,000 | 9,020 | 16,885 | 184,095 |
1000円昇給後の手取りは以前と比べて1,355円少なく、この昇給では会社が人件費コストを増やしても、従業員の実収は減ることになります。昇給は給与月額を報酬月額表と照らし合わせ、上限に近いところにとどめるべきなのです。
④ 退職日を月末にしない
社会保険料は月単位です。「何日分」という取り扱いはないので、5月1日に入社しようと5月31日に入社しようと、資格を取得した同じ5月、1ヶ月分の保険料がかかります。
逆に退職のとき、資格は最終在籍日(退職した日)の翌日に喪失し、保険料は資格喪失日(退職した日の翌日)が属する月の前月分までかかるので、退職日が5月30日だと資格喪失日は5月31日だから5月分の保険料負担はありませんが、退職日を5月31日にすると資格喪失日は6月1日になるので5月分の社会保険料がかかってきます。
この辺のところは将来の年金記録・年金額にも反映されますので、退職する従業員とよく話をしておく必要があります。
⑤ 2か月以内の期間雇用を使って削減
2か月以内の期間を定めた雇用契約で従業員を採用した場合、社会保険の加入が除外されます(短時間勤務である必要はありません)ので、仕事量に季節的変動がある業種では、2か月以内の雇用契約を上手く活用することで保険料の削減が出来ます。
この場合、労働者を採用するにあたってきちんと契約書で契約期間を明記しておくこと、2か月以内の契約なので、社会保険には加入しないことを確認しておくことが大切です。
⑥ 定年後の雇用は【再雇用制度】で
定年後の人に引き続き働いてもらう場合、同じ60歳過ぎの雇用でも、【雇用延長制度】と【再雇用制度】では社会保険料の取り扱いが全く違います。
雇用延長の場合、保険料の改定は随時改定なので、賃金ダウンがあっても保険料が安くなるのは算定に必要な継続3ヶ月が過ぎた4ヶ月目からですが、再雇用の場合には、「一旦退職して資格を喪失し、翌日から新しい給与で雇用され再度資格を取得した」取り扱いになるので、給与が下がればその当月から保険料も安くなります。
手続きは、定年と再雇用の定めをした就業規則のコピーを沿えて行います。
まだまだいろいろある削減法
勤務時間の短いパートタイマーの活用、賞与の支払い方の見直し・・・などまだまだいろいろな方法がありますが、まずは、社会保険の保険料額表をじっくりと見てください。
社会保険料の負担がこれだけ重くなってくると、昇給や賞与を決めるときには社会保険料も含めた総額人件費を視野に入れることが欠かせません。 会社経営の赤字黒字に係わらず、いやおうなく負担しなければならないのが社会保険料なのですから。
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