コロナ感染症が労災になるとき

★★ コロナ感染症が労災になるとき ★★

業務によって新型コロナウイルス感染症に感染した場合は労災保険の給付が
受けられます。コロナ禍に見舞われて1年半余り、労災請求の実態がわかって
きました。

■ 重要ポイント ────────────────────────

医療従事者等のコロナ感染症は請求の88%が労災保険の対象となったが、医療
従事者等以外では請求の60%にとどまった。

■ コロナ感染が労災になる場合 ───────────────────────

厚生労働省は昨年4月に新型コロナウイルス感染症の労災補償について内部通
達を出し、11月には「業務によって感染した場合、労災保険給付の対象となり
ます」というパンフレットを出しています。

それによると業務による感染と認められるのは以下の場合です。

(1) 感染経路が業務によることが明らかな場合

(2) 感染経路が不明でも、感染リスクが高い業務に従事し、それにより感
染した蓋然性が強い場合

(3) 医師・看護師や介護の業務に従事される方々については、業務外で感
染したことが明らかな場合を除き、原則として対象

■ コロナ感染症が労災決定されたの感染者数の1% ──────────────

2021年10月31日現在、新型コロナウイルス感染症にかかる労災請求件数は
20,702件、支給決定件数は16,424件となっています。請求件数に対し約
8割が労災と認められています。

日本のコロナ感染者数は約171万人ですからその1%の人が業務による災害
と認定され、労災保険の適用を受けたということになります。

■ 労災認定されたのは医療従事者が多い ──────────────────

今までのコロナ感染症の労災請求件数20,702件のうち医療従事者等の請求件数
は7割近い14,208件、支給決定件数16,424件のうち医療従事者等は12,462件で
す。

医療従事者等の請求に対しては約88%が労災であるとして支給決定されていま
す。

医療従事者等は業務外で感染したことが明らかである場合を除き、原則として
労災保険給付の対象となるという取扱いが反映されている数字といえます。

■ 医療従事者等の労災決定事例 ─────────────────────

医師、看護師、介護職員、理学療法士、診療放射線技師などの医療従事者につ
いては、感染経路は特定されなくても、日々多数の感染が疑われる患者又は介
護利用者と接する業務に従事したいたことが認められると、支給決定となって
います。

■ 医療従事者等以外での請求と決定 ──────────────────

医療従事者等以外の請求件数は6,458件で決定件数は3,938件です。

医療従事者等は請求に対して88%が支給決定されたのに対し、医療従事者以外
では請求の6割しか支給決定されなかったことになります。

■ 感染源が業務に内在していることが明らかと認められた事例 ────────

店内での接客業務に従事していた飲食店員が、店内でクラスターが発生し、こ
れにより感染したと認められ、支給決定されています。

■ 複数の感染者が確認された労働環境下での業務と認められた事例───────

製造業の建設資材製造技術者Aは、以下の事由で労災認定されました。

感染経路は特定されなかったが、発症前14日間に、会社の事務室において品質
管理業務に従事していた際、当該事務室でAの他にも、新型コロナウィルスに
感染した者が勤務していたこと。Aは感染リスクが相対的に高いと考えられる
労働環境下での業務に従事しており、私生活での行動等から一般生活では感染
するリスクが非常に低い状況であったことが認められたこと。

請求人を含め複数の感染者が確認された労働環境下での業務は感染経路が不明
でも感染リスクが高いと判断されます。

■ 顧客等の近接や接触の機会が多い労働環境下で支給決定された事例──────

感染経路が特定されず、複数の感染者が確認されなくても、保育士やバス運転
者、調剤薬局事務員などが支給決定されました。

保育士Eは、発症前14日間に、日々数十人の園児の保育や保護者と近距離で会
話を行う等感染リスクが相対的に高いと考えられる労働環境下での業務に従事
しており、私生活での行動等から一般生活では感染するリスクが非常に低い状
況であったこと。

■ 労災保険の種類────────────────────────

業務によって感染したとされると、様々な保険給付を受けられます。

治療費や薬局への支払いは無料になります。
コロナ感染して仕事を休み、賃金を受けていない場合、休業補償給付を受け
ることができます。給付額は1日あたり給付基礎日額の8割(特別支給金2割含
む)です。

業務によって感染したために死亡した労働者の遺族は、遺族補償年金、遺族
補償一時金などを受け取ることができます。

■ 申請の困難さ ────────────────────────

労災の保険給付の対象となるか否かの判断は、労災の請求書が提出された後に
行われます。

請求人は労働者本人ですが、会社の協力なしには請求書の提出は難しいと思い
ます。

労働者は、業務上の災害によるけがや病気であれば労災保険が適用され、そう
でなければ私傷病ですから健康保険が適用されます。

どちらの保険を使うかを自由に選ぶようなものではありません。

コロナ感染が業務によるものだと思っても、医療従事者でない場合は、業務に
よるものであるという立証が難しく、申請をあきらめる人が多いのではないで
しょうか。

労働者を保護するため優先的であるはずの労災保険ですが、コロナ感染症とい
う病にはその保険がうまく機能していないように思われます。