★★ 年金の男女差 ★★
サラリーマンの遺族が受け取る「遺族厚生年金」の在り方について、厚労省が
男女差を解消する方向で検討に入ったと伝えられました。
年金制度には男女差があります。
■ 重要ポイント ────────────────────────
年金制度は夫が無業の妻を支える仕組みで、特に遺族厚生年金では男女で大き
な違いがあります。
■ ケース(1)高報酬の夫と専業主婦の妻の場合の世帯の年金 ─────────
夫Aは報酬36万円、保険料が6.2万円で退職、妻Bは無職、夫婦同年齢で65歳
で老齢年金をもらう場合、世帯の年金額は、
夫Aの老齢基礎年金6.7万円、夫の老齢厚生年金10.8万円
妻Bの老齢基礎年金6.7万円、妻の老齢厚生年金0円
世帯の年金は24.2万円
■ ケース(2)共働き夫婦の負担と妻の遺族年金 ───────────────
夫Cは報酬22万円、保険料が3.8万円、妻Dは報酬14万円で保険料2.4万円
ケース(1)と二人合わせての報酬額、保険料額は同じです。65歳になって
年金は
Cは老齢基礎年金6.7万円、老齢厚生年金6.6万円
Dは老齢基礎年金6.7万円、老齢厚生年金4.2万円
世帯の年金は24.2万円
世帯でみればケース(1)とケース(2)は同じ掛金、同じ年金額です。
■ A死亡とBの遺族厚生年金 ────────────────────────
差が出るのは夫が死亡したときです。
夫A死亡時に妻Bが受け取る遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の10.8万円の3/4
で8.1万円。
妻Bは自分の老齢基礎年金(第3号被保険者だったので保険料負担はしていな
い)6.7万円と遺族厚生年金の8.1万円をたして14.8万円を受給できます。
■ C死亡とDの遺族厚生年金 ────────────────────────
夫C死亡時に妻Dが受け取る遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の6.6万円の1/2
の3.3万円と自分の老齢厚生年金の4.2万円の1/2の2.1万円を足して5.4万円で
す。
老齢基礎年金と遺族厚生年金を加えて12.1万円です。
遺族厚生年金の額は無業の妻Bが8.1万円、共働きの妻Dは5.4万円なのです。
これが1か月当たりの金額です。
■ 2つのケースで男女を入れ替えることはできるか ─────────────────
遺族厚生年金は、死亡した人に生計を維持されていた配偶者に支給されます。
妻に年齢制限はありません。
夫は妻死亡時55歳以上が要件で、55歳以上であっても60歳まで受給することが
できません。
妻が長年高報酬で働いていたとしても、妻が亡くなって夫が遺族厚生年金を
受給できるのは極めてまれだということになります。
■ 中高齢寡婦加算 ────────────────────────
夫死亡当時40歳以上の妻(子なし)には、遺族厚生年金(夫が受け取る厚生年
金の3/4)に加えて中高齢の加算がつきます。
平成4年度の加算額は583,400円です。
中高齢の寡婦加算を受け取っている昭和31年4月1日以前生まれの方が65歳にな
ると、生年月日に応じて経過的寡婦加算がつきます。
■ 寡婦 ────────────────────────
寡婦はシングルマザーではありません。寡婦とは夫と死別し、婚姻していない
女性のことです。再婚すると遺族年金は失権します。
配偶者の死亡について、婚姻期間の長短は問われません。婚姻直後に夫が死亡
しても、翌月から妻に遺族厚生年金が支給されます。
■ サザエさんは昔話 ────────────────────────
1980年頃、専業主婦世帯は共働き世帯の約2倍でした。女性の勤続年数は6.1年
と短く、男性を100とした女性の賃金は58.9(無業の女性は数字に入らない)
でした。
1981年日産自動車女子若年定年制事件の判決で、男女別に定めた定年は性別の
みによる不合理な差別であるとされました。1970年代までは多くの企業に男女
別定年制が存在したのです。
そのような背景の中で、1985年基礎年金制度ができそれまでなかった女性の年
金権が確立しました。サラリーマンの被扶養配偶者(専業主婦)を国民年金に
強制適用(第3号被保険者制度の創設)することにしたのです。
2021年の統計では共働きが1247万世帯に対し、片働き世帯の568万世帯に対し
2.2倍にも増加しています。1997年から共働きが片働き世帯を上回り続け今に至
っているのですが、年金制度は40年前の骨格を変えていません。
■ 男女差別の年金制度は見直しの時期に ────────────────────
共働き世帯が増え、指導的役割を担う女性の活躍が期待されている一方で、年
金制度は時代にそぐわないものになっています。
年金制度の再検討の議論が深まることを期待します.