従業員のうち、管理職の数人を 年俸にしている会社がありました。
年俸制にすると残業代はいらないのでしょうか?
年俸制はとりいれるべきなのでしょうか?
■ 重要ポイント
年俸制は残業対象外の管理職に限定して採用すべき制度です。
年俸は下げにくいことを考えて、基本年俸と業績年俸に区分して支払う規定とすべきです。
■ 残業が全く無いのなら・・・
あなたの年俸は600万円です。と契約しても、はじめに600万円を支払ってあとの11か月はナシということはできません。
賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならないからです。
600 万円なら12 で割って、1 か月50 万円です。毎月50万円を支払って年俸600万円にすることはできます。
また、1か月は40万円にして、8月と12月は賞与相当額として60万円ずつを支払うこととして、年俸600万円という方法もできるでしょう。
残業が全く無いのなら、従業員の一人ひとりを年俸にすれば、賃金の管理はわかりやすく簡単です。
■ フツウの従業員を年俸制にするリスクは大きい
年俸制でも、残業代の支払は必要です。
年俸600万円の人に残業があったとします。12分の1の50万円を所定労働時間で割り1.25をかけて残業代を支払わなければなりません。 1か月は40万円、賞与で120万円という支払い方法でも、残業代は約束されている年俸600万円を12等分した50万円を基礎に計算します。
とんでもない金額の残業代になってしまいます。
年俸制は残業代の支払対象ではない「監督若しくは管理の地位の者」に限って適用すべきものなのです。
■ 年俸制に残業代を含めることはできるか
もっともフツウの従業員を年俸制にして残業代を含んだものとすることはできます。
年俸600万円から考えてみると以下のようになります。
月給与50万円の内訳
基本給 408,000円
固定残業代 92,000円(30時間分の残業代)
(408,000 円 ÷ 170 時 間 × 1.25 × 30.666 ≒92,000)
月間所定労働時間を170時間として計算
この場合、残業が30時間を超えたときは、超えた分の残業代を別途支払わなければなりません。
また、月給与50万円の内訳
基本給 340,000円
固定残業代 160,000円
(64時間分の残業代)
(340,000÷170時間×1.25×64=160,000円)
のようにすることもできないわけではありませんが、時間外労働の限度基準、36協定の限度時間を考えると、固定残業代をむやみに大きくすることはお勧めできません。
■ 年俸制は紛れもない管理職に適用する
年俸制に残業代を含める方法はできないわけではありませんが不自然です。
残業代を支払わなければならないフツウの従業員を年俸制にするのはやめるべきです。 年俸制は 管理職(課長以上) 又は研究職 (裁量労働制対象者に限る)とすべきです。
残業代を考えなくてもよい人に限定して年俸制をとるべきなのです。
■ 年俸制であっても基本部分と業績部分を分けるべき
管理職等に年俸制を適用するに当たっていくつか注意する点があります。
年俸を毎月確実に支払う約束の基本年俸と業績年俸に区分すべきということです。
業績年俸は会社業績と本人の目標達成度、会社貢献度に応じて変動するものであることを明確にしておくことが重要です。
■ 年俸制であっても欠勤控除の方法を決めておく
年俸制は、年を単位に賃金を決める制度ですから、日割り計算や欠勤控除を想定していません。
賃金規程で、年俸制適用者にも欠勤や休職のときは所定労働日数を基準として日割り計算し、欠勤控除すると明記しておくべきです。
年俸制適用者が途中退職した場合、退職日以降の賃金の支払は行わないこと、加えて賞与も支給日に在籍していなければ支給しないことを明らかにしておきましょう。
■ 年俸制を止めるにはどうすればよいか
「なぜ年俸制にしたのですか?いつから年俸額に?」
年俸制の管理職がいる会社で聞いてみると、答えは、
「賞与にも高い社会保険料が徴収されるようになったときから」
というものでした。
その会社では管理職も含め従業員の残業が少ないこと、管理職としての自覚を高めたいという期待もあり、年俸制をとりはじめたといいます。
年俸を単純に12等分して支払っていて、賞与の支払はありません。
中にはまだ40歳前の若い従業員(管理職)もいました。
今後長期的にその従業員の年俸を維持することが困難になることも考えられます。
今から対策を考えようということになりました。
■ 改定の話を早いうちに
【今の年俸を保証するが、毎月の給与は年俸の16分の1とし、残りの16分の4はそれぞれ2か月ずつ夏冬の賞与とする。(その会社で平均的な従業員の賞与は月給与の各2か月分なので。)
数年のうちには、賞与を会社の業績と本人の会社貢献度を反映させたもの(金額にアップダウンがあるもの)とする。】
年俸を保証するとはいえ、毎月支払われる賃金が下がるので、実施までには1年以上の期間をおき、該当者の一人ひとりにきちんと話をして、合意を得ておき、慎重に実施しましょうということになりました。
年俸というとプロ野球の選手を思い浮かべてしまいます。
野球選手のようでいいじゃないか、年俸にしよう!
実は、リスクが大きいことなのです。
その他の記事
◎ ト ピ ッ ク ス
医療費、過去最高に平成22年11月24日 厚生労働省発表
厚生労働省は、国民医療費が平成20年(2008)度は前年比2.0%増の34兆8084億円となり、過去最高を更新したと発表した。国民所得に対する医療費の割合は9.9%となった。
原因は高齢者の増加と、医療技術の進歩によって同じ病気でも治療費が多くかかるようになっているため。
国民1人あたりの医療費は2%増の27万2600円で過去最高。65歳未満の平均が15万8900円なのに対し、65歳以上は67万3400円。
今後も増加の見込み、保険料の負担増はどこまで……
◎ シリーズ 年 金
~ 2013年 問 題 ~
60歳になると少し年金がもらえる… 今はそうですが、2013年(平成25年)になるとそうはいきません。 昭和28年4月2日以降に生まれた男性は、60歳から1年間まったく年金を受け取ることができなくなります。 報酬比例の年金を受け取れる年齢 S28/4/2~S30/4/1生まれ・・61歳 S30/4/2~S32/4/1生まれ・・62歳 S32/4/2~S34/4/1生まれ・・63歳 S34/4/2~S36/4/1生まれ・・64歳 S36/4/2以降生まれ ・・・・65歳 (女性は5年遅れ)
◎ 人事労務の素朴な疑問
災 害 補 償
使用者は、業務上の災害に対し、療養補償、休業補償、障害補償、遺族補償、葬祭料を支払う義務を負う。《労働基準法第75条~88条》
この法律を受けて労働者災害補償保険法(=労災保険法)があります。1人でも労働者を雇う使用者は、労災保険に加入して、災害があったときに補償をします。
労災保険は全額事業主負担、労働者の負担はありません。
◎ 業務日誌から
『産前産後、育児休業あれこれ』話をさせていただきました。 「産休をとる社員がいるので、いろいろ教えてほしい・・・」
総務課社員とおなかの大きい社員を前に、産休とそれに関わる社会保険のしくみや請求の仕方について話をさせていただいた。
産前は6週間前から出産手当金が出るが、本人が働きたいというのであれば働いてもらってもよい期間であること。産後の6週間は必ず休ませる期間であること。産後6週間を過ぎて請求があれば、医師が支障がないと認めた業務に就かせてもよいこと。育児休業をとりたいのであれば、1歳までは休業できること。その間は雇用保険から、働いていたときの大体半分のお金の所得保障があること。社会保険料はめんじょされること。今年の法改正で、パパ休暇、パパママ育休プラスなどの男性の育児参加を促す制度ができていること。・・・
話はいつしか自分の出産のときの思い出話になってしまい、出産する社員にはそちらも興味を もっていただけたようであった。また元気に職場復帰してほしい。