残業時間が多い会社でよく聞きます。
「業務の都合上、長時間労働はやむをえないんですよ。」
「クリエイティブな仕事だから」
「完成時期の見通しが立ちにくい仕事なので」 などなど。
させてはいけない、してはいけない長時間労働はどのくらいなのでしょう。
重要ポイント
45、60、80、100時間。
1か月の時間外労働時間が増えることによるリスクを知っておこう。
1か月45時間、1年360時間
そもそも残業を命じるには、労使協定を結び、何時間の残業をするのか、定めなければなりません。国は時間外労働について限度時間を定めています。1か月の残業時間の限度は45時間、1年では360時間です。
360時間を12で割ると30時間です。1時間から1時間半程度の残業が、毎日のようにあったとしても、30時間に収まりますから、労働時間が長すぎるという問題はまず起こらないでしょう。限度基準が1か月45時間ということは残業がどんなに多くても45時間ということです。多くて45時間、月平均で30時間が許されている基準といえます。
次に80時間、100時間
月45時間以上の時間外労働があると健康障害のリスクは徐々に高まります。
時間外労働が月100時間、または、2~6か月平均で月80時間を超えると健康障害のリスクはさらに高まります。
2~6か月平均で月80時間を超える時間外労働とは、過去2か月間、3か月間、4か月間、5か月間、6か月間のいずれかの月平均時間外労働が、80時間を超えるという意味です。
120時間、160時間という数字も
平成23年12月に精神障害の労災認定基準が新しくなりました。
発病前6か月の間に起きた業務による出来事を分類、評価して、「強」とされると、業務による強い心理的負荷が認められることになります。
長時間労働に従事することは、精神障害発病の原因となりうるという考えから、長時間労働は次の場合に「強」と評価されます。
- 発病直前の1か月におおむね160時間以上の時間外労働を行った場合。
- 発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合。
- 発病直前の2か月間連続して1月当たりおおむね120時間以上の時間外労働を行った場合。
- 発病直前の3か月間連続して1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合。
- 転勤で新たな業務に従事し、その後月100時間程度の時間外労働を行った場合など、他の出来事と関連して、長時間労働があった場合。
長時間労働は業務による強い心理的負荷のひとつの判断の要素で、「強」がただちに労災認定とはなりませんが、このような具体的な判断基準を国が示していることに注意を払う必要があります。
60時間を超えると5割増の残業代
平成22年4月以降、月60時間を超える時間外労働には通常の割増率2割5分ではなく、5割以上の割増賃金率で、残業代を払わなければならなくなっています。現在は大企業が対象です。
中小企業は3年後に改めて検討ということでしたが、今も猶予期間は続いています。
5割増という「払えないようなペナルティー」が課され、60時間を超える時間外労働をさせないようにという仕組みなのです。
限度基準を超える時間外労働ならば【特別条項】
国の時間外労働の基準である、1か月45時間や1年360時間を超える時間外労働が見込まれるときには、時間外労働の協定に【特別条項】をつけなければなりません。
特別条項をつけることで、限度時間を超える時間を延長時間とすることができます。 平成22年4月から限度時間を超えて働かせる、1か月とか1年とかの期間ごとに、割増賃金率を定めること、その割り増し賃金率は法定の2割5分以上を超える率とするように努めなければなりません。
管理職であっても
労基法上の管理監督者であっても、労働者です。
単に、「労働時間、休憩及び休日に関する規定」が除外されているに過ぎません。
深夜労働(午後10時から午前5時の間の労働)に従事した場合は、深夜労働割増手当を支払う必要があります。
管理職であっても、午後10時以降の業務には深夜割増というペナルティーがあることを踏まえ、午後10時前の退社を原則とし、残業時間の削減につなげたいものです。
ちなみに管理監督者が深夜労働を行った場合の割増賃金の支払いは、割増部分の25%の支払いのみで足ります。125%の支払い義務はありません。
割増率をペナルティーとして考えると
通常の割増賃金が2割5分なのに対し、法定休日労働の割増率が3割5分ということは、週に1回の休日確保は非常に重要だといえます。
60時間を超える時間外労働は5割増ですから、恒常的に60時間の残業があることは使用者の管理責任を問われる事態だといえます。
労働時間の法の枠組み
労働基準法では労働時間について以下のように定めています。
- 1週について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならない(32条1項・2項)
- 労働時間が6時間を超える場合は45分間、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を与えなければならない(34条1項)
- 毎週少なくとも1日の休日を与えなければならない(35条)
- 法定の労働時間を超えて労働させる場合、法定の休日に労働させる場合には、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出なければならない。
この場合、割増賃金を支払わなければならない。(36条・37条)
法律上、時間外労働は労使協定締結という手続きを経て、特別の場合にペナルティーを伴って許されるという仕組みなのです。
労働時間の現状
「所定外労働時間は前年より、4.5%増加し、長時間労働の相談も監督署等に多くよせられている。週労働時間が60時間以上の労働者の割合は依然として約1割を占める(全国の労働力調査による)とともに、脳・心臓疾患、精神障害に係る労災請求件数が増加するなど、恒常的な長時間労働の実態が見られる。」 (平成25年度新潟労働局、行政運営方針)
長時間労働は減らず、「体や心の健康を害した原因は業務のせいだ」と労災請求する人は減っていません。新潟県内でも、全国的な数値でも、労災請求件数は高止まりして、減少する傾向はありません。
過重労働で健康を害すことのないよう注意しなければなりません。
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ト ピ ッ ク ス 「育休が3年になると?」
【育児休業期間を3年に延ばしたらどうか】話題になっています。 育児休業をしている場合、3歳に達するまで社会保険料が免除されます。
雇用保険の育児休業給付は、1歳(パパ・ママ育休プラスは1歳2か月、保育園が見つからない等の場合は1歳6か月)まで受けられますが、それ以上育休を延長しても給付期間は延びません。
年休について、「過去1年間(最初は6か月)の出勤率8割以上」が条件となっていますが、原則1歳までの育児休業をした期間は、「出勤したものとみなす」取り扱いです。それ以上の休業期間に特別の計らいはありません。
雇用保険の給付が1歳で無くなるのでは、育児休業の期間が延びても経済的に困ることになります。今後どうなっていくのでしょうか・・・
シリーズ年金 ~産休の保険料免除は平成26年4月1日から~
産前6週間(多胎妊娠は14週間)および産後8週間の産前産後休業中についても、育児休業中と同様に社会保険料が免除されることになりました。
休業を開始した日の属する月から保険料が免除されます。4月1日の施行日前に産前産後休業を開始した者は、施行日を休業開始日とみなします。
【スタッフからひとこと】 所得を確認するには?
5月末から協会けんぽより『健康保険被扶養者状況リスト』が随時事業主へ届き、被扶養者資格の確認が求められます。
事業主は扶養家族となっている、妻や子の収入の確認をしなければなりません。
給与をもらっている人や、専業主婦(無職)は、H25年度「所得証明書」(H24年1月1日~12月31日)が発行されています。所得証明書をもらうと、所得の確認ができます。所得に変化がないかチェックを!
【 退職金はいつ払う? 】 業務日記 5月□日
「三浦雄一郎、80歳、エベレスト登頂」が伝えられた翌日、定年後の雇用についてある会社で相談、打ち合わせをした。
「退職金の支払い時期が御社の規定では明確ではありませんね。今後60歳を過ぎる従業員が増えますが、退職金は60歳定年のときに支払いますか?それとも・・・」小野本
「やる気がない社員を長期に雇用するわけにはいかないので、定年は60歳とする。定年になった社員が60歳以降も継続雇用を希望するのであれば、70歳までの継続雇用はしたい。同じ仕事をしている社員に、年金がもらえるからとか、職安のお金が少しもらえるからという理由で賃金を減額することはしたくない。すべきでないと思う。
退職金は、会社を退職するときにその労に報いるために払いたい。大企業のように一般従業員の賃金は高くないし、退職金も高額ではなが・・・三浦雄一郎のュースを聞いて、会社は働きたいという社員には雇用の場を提供し続けなければならないのであろうと思った。そして、退職金は退職のときに感謝の気持ちをこめて払いたい。」経営者