「年次有給休暇は労働者の請求があったときに与えるもので、会社のほうから与えなければならないものではないのでは?」
ハイそうです。ですから請求もないのに年次有給休暇を付与しなければならないというのはおかしいのですが、どうやら付与義務が課されそうです。
重要ポイント
過重労働対策が求められるなか、5日の年次有給休暇の付与が使用者の義務になります。
年休に関する相談件数
新潟県内の労働基準監督署に寄せられる相談で、「年次有給休暇」に関するものは、「解雇」「賃金不払」について3番目に多くなっているといいます。
たとえば
・当社に年休制度はないといわれた。
・パートや契約社員に年休は不要であるといわれた。
・自分の年休が何日あるかわからないし、聞いても教えてくれない。
・病気や親族の不幸など特別の理由がない限り年休は使えない、といわれた。
・年休をたくさん使ったらボーナスに響くぞ、といわれた。
・年休を請求して休んだのに、許可がないから欠勤として扱った、といわれた。
いずれも、法違反あるいは不適切な内容としてリーフレットで取り上げられています。
なぜ年休の相談が増えているのか
年次有給休暇の相談がなぜ増えているのでしょう。
年休は正社員ばかりではなく、パートや契約社員といった雇用契約で働く人にも、6カ月以上の勤務と、8割以上の出勤率を満たせば、当然に付与される権利です。所定労働日数が少なくても、比例計算された日数の年次有給休暇が付与されます。「わが社には年次有給休暇はない。」とは小さな会社であってもいえないのです。
年次有給休暇を請求されたときに「その日は困るから変えてくれ」という時季変更権はありますが、年休を請求することは労働基準法で認められた労働者の権利です。許可を待って付与されるものではありません。
年休を与えてくれない会社には、働く人の不満がつのり、やむなく監督署に相談し、改善を求めているのでしょう。
インターネットで検索すれば、私も年次有給休暇がもらえると簡単にわかってしまいます。
年次有給休暇の取得目標は70%
実は年次有給休暇の取得について、政府は目標を掲げています。
2015年までに59%、2020年までに70%というものです。
ところが、2013年度、全国平均で取得率は48.8%、取得日数は9日です。ここ数年50%に満たない数字で推移しています。
新潟県については、取得率は40%を下回り続け、取得日数も6日程度で、全国平均より少ないのが現状です。このままでは政府目標の達成は困難です。
年休が取得できない理由
「年次有給休暇の取得に関する調査」(2011年4月、労働政策研究・研修機構)によると、年休をとり残す理由として以下のことが挙げられています。
・病気や急な用事のために残しておく必要があ
るから
・休むと職場の他の人に迷惑になるから
・仕事量が多すぎて休んでいる余裕がないから
・休みの間仕事を引き継いでくれる人がいないから
・職場の周囲の人が取らないので年休が取りにくいから
・上司がいい顔をしないから
・勤務評価等への影響が心配だから
年休の権利は労基法の制定から
年次有給休暇制度は、労働基準法が昭和22年(1947年)4月に制定されたときに設けられました。初年度の付与日数は6日でした。
昭和62年(1987年)、以下の改正が行われました。
①年次有給休暇の最低付与日数の10日への引き上げ
②所定労働日数が少ない労働者について比例付与制度の創設
③労使協定による計画的付与制度の創設
④年休を取得した労働者に対し、不利益な取り扱いをしないようにしなければならない旨の規定の新設
平成5年(1993年)になって、初年度の年休の継続勤務要件が1年から6か月に短縮されました。
さらに平成20年(2008年)労使協定により年5日の範囲内での時間単位の年休が認められるようになりました。
国が年休の取得促進をする背景
雇用者のうち、週労働時間60時間以上の者の割合が8.8%、特に30代男性で17.2%と高くなっています。
過労死防止対策推進法が2014年6月に成立し、働きすぎ防止のための取り組み強化、長時間労働を抑制することが喫緊の課題となっています。
これらのことが、年次有給休暇の取得を促進する法改正とつながっています。
年5日の年休付与義務
「年次有給休暇の日数が10日以上の労働者に対し、年次有給休暇のうち年5日については、1年以内の期間に、時季を定めて与えなければならないものとすること。ただし、労働者の時季指定又は計画的付与制度により年次有給休暇を与えた場合は当該与えた日数分については、使用者は時季を定めることにより与えることを要しないものとすること。」(平成27年2月17日「労働基準法等の一部を改正する法律案要綱」)
使用者が年休を5日付与する義務が労働基準法改正(平成28年4月予定)で課されることになりそうです。年次有給休暇が10日以上である労働者が対象であるということは、パートタイマーなども例外ではないということになります。
年休管理簿の作成義務
「各労働者の年次有給休暇の取得状況を確実に把握するため、使用者は、年次有給休暇の管理簿を作成しなければならないものとすることを厚生労働省令で定めることとする。」(同上の要綱)
使用者は、年次有給休暇の管理簿を作成しなければならなくなるのです。
違反した場合は、使用者に罰則が科されます。
年次有給休暇を付与できるようにするための事務負担が増えることと、年次有給休暇を取得する人の仕事をどう補うかについても今から準備しておく必要がありそうです。
その他の記事
ト ピ ッ ク ス 労働基準法の改正案 厚生労働省労働政策審議会 2月17日
平成28年4月改正案(諮問された改正案要綱)労働基準法 ポイント
1 1カ月60時間を超える時間外労働については、中小企業も5割増とする。
2 時間外労働の限度基準は労働者の健康を考慮するものとする。
3 年次有給休暇のうち5日は使用者が付与しなければならない。
4 フレックスタイム制について清算期間の上限を3か月とする。
5 企画業務型裁量労働制に問題解決型営業などを追加する。
6 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)を一定の要件(年収1,075万円以上など)のもとに認める。
⇒ 過重労働対策、健康確保の推進が今まで以上に具体的に求められる。
シリーズ 労働関係の言葉 ~ 労働時間が44時間の特例 ~
労働基準法は、1週間の労働時間を40時間と定めていますが、特例対象の事業場については、44時間を認めています。対象は、労働者数10人未満の①商業、②映画・演劇業、③保健衛生業、④接客娯楽業です。
労働政策審議会ではこの特例の範囲の縮小が議論されましたが、改正案には、盛り込まれていません。
【スタッフからひとこと】 「健康保険料が変わります!」
例年、3月分(4月納付分)より変更になる協会けんぽの健康保険料率・介護保険料率ですが平成27年度については、4月分(5月納付分)より変更になる予定です。
新潟県の健康保険料率は、9.86%で9.9%から0.04% 引下げ、介護保険料率は、1.58%で1.72%から0.14%引下げとなる見通しです。
【 さまざまな疑問にお答えします 】 業務日誌より
Q 「近所に住んでいて通勤手当のなかった月給30万円の社員が引っ越したので5000円の通勤手当を2
カ月払い、3か月目に役職になったので手当をつけ給与総額を45万円にした。月額変更は必要か?」
A 「月額変更届は、①固定的賃金の変動、②賃金支払基礎日数がすべて17日以上、③変動後3か月の
平均が2等級以上の時に行う。この場合平均額が353,333円になり、月額変更が必要。45万円になって
3カ月経過しなくても、保険料は上がる・・・」
Q 「従業員の同居の父親が定年退職した。父と母は従業員の健康保険の扶養になれるか?」
A 「年収による。被保険者の年収の半分未満であって、年金のみであれば、年収は
180万円未満が要件。」
Q 「第1子の養育特例期間(3歳未満)の間に第2子を出産したら、第2子の養育特例
はどうなる?」
A 「第2子の産休開始により、第1子の養育期間の特例は終了する。第2子の養育特例
に係る従前の標準報酬月額は第1子の復職前の報酬月額が引き継がれる。」