違法な長時間労働で企業名公表?

 違法な長時間労働を行っていた会社の名前が公表されました。

 行政指導の段階で、企業名が公表されたのは初めてのことです。
 どんな背景があったのでしょう。

重要ポイント

 全国展開しているような企業で100時間を超える残業が常態化していると、是正指導の段階で企業名が公表されます。 

企業名が公表された会社の実態

 是正指導が公表されたのは、千葉市に本社がある棚卸業務代行会社「エイジス」。
 1978年国内初の棚卸専門会社として設立、1996年には上場している会社です。
 国内棚卸会社唯一、日本全国に拠点ネットワークを持ち、直営50拠点、FC36拠点、業界シェア77%。従業員は連結で約700名。国内のみならず、韓国、中国、タイなどにも事業を拡大しています。
 企業理念として「お客様にプロフェッショナルとして最高のレベルの棚卸を提供する」をかかげ、「エイジスは、人材育成企業です。エイジスの仕事は、人が居て初めて成り立つ仕事です。人が資産の仕事ですから、エイジスは人を大切にし、人への育成投資を惜しみません。」とうたっています。
 2016年3月期の業績(5月11日付)は連結売上高、営業利益ともに過去最高を記録、その要因として人件費(「当社にとって人件費とは仕入」決算説明会スライドの音声のことば)が3.1ポイント下がり、前年比33.6%の増益となったといいます。(会社ホームページより)

厚生労働省の方針の転換

 労働基準監督署は労働関係法令の違反があった場合に、「是正勧告書」で改善を勧告します。法違反ではないが違反が疑われることが確認された場合、「指導票」を出して、改善を指導することもあります。
 あくまでも是正を目的とする行政指導なので、会社名が公表されることはありませんでした。
 しかし厚生労働省は昨年5月18日、以下の方法で長時間労働対策をすると発表しました。
 「長時間労働に係る労働基準法違反の防止を徹底し、企業における自主的な改善を促すため、社会的に影響力の大きい企業が違法な長時間労働を複数の事業場で繰り返している場合、都道府県労働局長が経営トップに対して、全社的な早期是正について指導するとともに、その事実を公表する。

公表の対象基準

 厚労省は以下のいずれにも当てはまる事案について指導・公表の対象とするとしています。
1 社会的に影響力の大きい企業。具体的には複数の都道府県に事業場を有している企業。
2「違法な長時間労働」が「相当数の労働者」に認められ、「一定期間内に複数の事業場で繰り返されている」こと。
 違法な長時間労働:労働時間、休日、割増賃金に係る労働基準法違反が認められ、かつ、1か月当たりの時間外・休日労働時間が100時間を超えていること。
 相当数の労働者:1箇所の事業場において、10人以上の労働者又は当該事業場の4分の1以上の労働者において違法な長時間労働が認められること。
 一定期間内に複数の事業場で繰り返されている:概ね1年程度の期間に3か所以上の事業場で「違法な長時間労働」が認められること。

エイジスの実態

 株式会社エイジスの4つの営業所でこの1年間に4回是正勧告を行ったものの改善がされませんでした。
 エイジスでは4事業場(千葉県外に所在するものも含む)で合計63名の労働者が1か月当たり100時間を超える時間外・休日労働を行っていました。1か月当たりの時間外・休日労働の最長時間数は197時間でした。
 5月19日、千葉労働局長は株式会社エイジス代表者に対し、違法な長時間労働について、是正勧告書を交付、公表しました。
 設立以来最高の売上高、営業利益の数字の裏には、皮肉にも人件費の抑制、違法な長時間労働があったということになるでしょう。
 厚労省の公表基準の発表からちょうど1年後の公表となりました。

違法な長時間労働とは

 法定の労働時間を超えて労働を命じるには36協定の提出が必要で、この協定を出さずに残業を命じることは長時間の残業でなくても「違法」となります。
 また、残業時間に応じた割増賃金を支払わなければ、「違法」です。
 もし、「3月と5月は労使の協議を経て120時間までの時間外労働を命ずる」という特別条項を付の36協定を締結、届け出をすれば、その範囲で100時間超の時間外労働があっても、「違法」とはいえないリクツです。
 今回公表の報道発表資料では36協定の締結については触れず、労働基準法第32条違反(週40時間を超えて労働させてはならない)が認められたという表現になっています。

月100時間の残業があると

 月100時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる施しなければなりません。(安全衛生法の改正、平成18年4月1日から施行)
者が申し出た場合、医師による面接指導を実施しなければなりません。医師から意見を聴取し、適切な措置を実 精神疾患を発病した場合に長時間労働がある場合、業務との関連性が問われますが、労災の認定基準として
 「発病直前の3か月間連続して1月あたりおおむね100時間以上の時間外労働を行った場合」は業務との関連性が濃く疑われる「強」と評価されます。(平成23年12月精神障害の労災認定基準)
 残業100時間が継続しているのに、放置してはならない、そのことが強化された今回の企業名公表ともいえそうです。

ハローワークでの新卒求人は不受理

 今年の3月1日以降法令違反等をしている企業の新卒者向けの求人票は受理されなくなりました。
 その中に、「1年間に2回以上同一条項の違反について是正勧告を受けている場合」「違法な長時間労働を繰り返している企業として企業名公表された場合」があります。

企業名公表と罰則は違う

 公表されることにより、ダメージは少なくないと思いますが、労基法の違法があったからといって、経営者や役員がすぐに逮捕されることはありません。度重なる是正指導に従わない、是正したという報告がうそであったような場合に、書類送検され、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)に問われることになります。

そ の 他 の 記 事 

 ト ピ ッ ク ス   改正介護休業法と介護休業給付金のアップ

 介護休業が取得しやすくなるような法律が改正され、施行されます。
 介護離職の防止と、仕事と介護の両立を支援する制度
〇対象家族1人につき、3回を限度として、通算93日まで、介護休業を分割取得することができることとする。(現行では原則1回、93日まで)
〇介護休暇の半日取得を可能とする。
〇介護短時間勤務を3年の間で2回以上の利用を可能とする。
などで、施行日は平成29年1月1日です。
 休業制度ができても、所得保障がなければ休めないのが現実。雇用保険法からの給付金について現行では給付率が40/100ですが、67/100に引き上げられます。施行は8月1日からです。
 1年以上引き続き雇用された期間が1年以上である期間雇用者も原則的には介護休業の申し出ができるようになります。

 労務のことば    ~通勤とは~ 

「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復を、合理的な経路および方法により行うこと」と労災保険法で定義づけされています。
 該当の場合の事故を通勤災害といい、労災保険で保護されます。
 通常の経路を逸脱しても、日常生活上必要な行為(食品の購入や保育園の送迎のための逸脱)であれば、通勤となります。 

 【スタッフからひとこと】  傷病手当金の添付書類が不要に

 今年の4月より傷病手当金と出産手当金の添付書類が変更され初回申請時に必要だった出勤簿と賃金台帳の添付が不要となりました。

 良かった!と思いたいところですが、今後は、申請書のみで判断されることになる・・・これまで以上に慎重な記入を心掛けなければならないでしょう。

 【 業務中に車で事故、どうすれば・・・ 】相談から  業務日誌5月○日

 「会社の業務のためにマイカーを使っていたのですが、車両事故を起こしてしまいました。どうすれば…」
 業務命令下の運転中の事故は、業務災害ですが、労働者が怪我をしたりしていなければ、自賠責保険や自動車保険を使います。
 万が一の事故のことを考えると、会社は社有車を用意し、業務中はマイカーを使用させずに、社有車を使用するようにすべきです。マイカーを業務に使用する場合は、ガソリン代等の実費を会社が負担するのはもちろん、使用頻度によっては車両の賃借料や使用損料を払うべきでしょう。車を持つと保険料や自動車税、車検費用、スノータイヤ代もかかります。
 マイカー運転については、車の管理をよくして安全運転をするように規定することはできますが、事故の場合に会社がいっさい責任を負わないというわけにはいきません。車の運転を業務として命じている会社側には運行供用者責任があるからです。また、民法上の使用者責任も会社側は負っています。本人が不注意などで起こした事故でない限り、従業員に責任を全て負わせるわけにはいきません。