年金の繰下げ

★★ 年金の繰下げ ★★

65歳になっても元気で働けるので、年金はもう少し年を取ってから受給した
い・・・
そんな相談を複数の方からいただきました。

年金支給を遅らせると、年金はどのくらい増えるのでしょうか。どんな仕組み
なのでしょうか。

■ 重要ポイント────────────────────────

65歳でもらえる年金は66歳以降に繰下げることで、割増された年金をもらうこ
とができます。

■ 65歳の年金────────────────────────

65歳になると老齢基礎年金と老齢厚生年金の2種類の年金が受給できます。

老齢基礎年金はどんなに高報酬で働いていても、ほかの所得がどんなにあって
も、減額されることなく、一定期間の納付があれば支給されます。

40年間納付していれば老齢基礎年金は約78万円です。

老齢厚生年金は掛けた年数と報酬額(厚生年金保険料額)により人それぞれの
金額です。

もし年収を12で割った報酬額(総報酬月額相当額)が36万円くらいで、老齢厚
生年金の月額(基本月額)が10万円なら、10万円の年金は減額されずに受給で
きます。

(総報酬月額相当額+基本月額≦47万円なら年金の減額はない)

■ 年金の繰下げ支給 ────────────────────────

65歳から受給する年金を、1年(12か月)以上遅らせて66歳以降に申出て受給
することを「繰下げ支給」といいます。申し出た翌月分から増額された年金を
受給することができます。

■ 繰下げ支給のメリット────────────────────────

繰下げ増額率は、繰下げ申し出をしたときの月単位の年齢に応じて決まり、1
か月ごとに0.7%ずつ増え、8.4%から最大42%まで増えます。

増加率=繰下げ月数×0.7%

66歳で繰下げてもらうと108.4%、70歳で繰下げてもらうと142%の支給率です。
増額された年金は生涯にわたって受け取ることができます。

■ 繰下げの方法には3通り────────────────────────

繰下げの方法には3通りあります。

(1)老齢基礎年金を繰下げる。

(2)老齢厚生年金を繰下げる。

(3)老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰下げる。

当然、老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰下げた方が受給するときには有
利になります。

■ 具体的にいくら増えるか────────────────────────

65歳で老齢基礎年金を80万円、老齢厚生年金を100万円もらえると仮定します。

65歳で老齢厚生年金の100万円のみをもらい、老齢基礎年金だけを繰下げて
70歳で受給した場合、70歳からの老齢基礎年金は80万円×1.42で1,136,000円に
増え、そこに老齢厚生年金の100万円が加算されます。合計で2,136,000円です。

65歳で労委基礎年金の80万円のみをもらい、老齢厚生年金だけを繰下げて70
歳で受給した場合、70歳からの老齢厚生年金は142万円に増えて、老齢基礎年
金の80万円が足されますから合計2,220,000円です。

65歳からの5年間、年金を受給しないで70歳になって初めて老齢基礎年金と
老齢厚生年金を受給した場合は、180万円が1.42倍されて2,556,000円となりま
す。

■ 繰下げ支給の注意点────────────────────────

70歳まで繰下げた場合、受給額でかなり有利になりますが、気をつけなければ
ならないことがあります。

(1)老齢基礎年金の繰上げ支給をした人は、「老齢基礎年金の繰下げ支給」
はできません。また、66歳までに遺族年金など、他の年金の受給権のある人も
「繰下げ支給」はできません。

(2)繰下げ待機中に厚生年金に加入したときの、在職による支給停止相当額
は、増額の対象外です。

(3)老齢基礎年金に加算される振替加算や老齢厚生年金の加給年金は、繰下
げ待機中は支給されず、増額対象外です。

(4)繰下げ待機中に、他の年金(遺族年金等)が発生したときはその時点で
増額率が固定されます。

■ 本当にお得か────────────────────────

繰下げ受給したときと、通常に受給した場合とで、受給総額が逆転するのは、
繰下げ受給してから11年11か月後です。振替加算や加給年金が支給される人が
繰下げ支給をしたときは、さらに逆転するのが遅くなります。

■ 年金請求手続き────────────────────────

厚生年金の加入期間が1年以上ある人には受給開始年齢を迎える誕生月3か月前
に「年金請求書」が送られてきます。(緑色の封筒)
65歳時の年金請求書はハガキです。65歳の誕生月(1日生まれの人は前月)に
日本年金機構から送られてきます。

厚生年金受給者が提出する「65歳時の年金請求書」は、それまで受給していた
「特別支給の老齢厚生年金」が失権し、老齢基礎年金と老齢厚生年金に裁定替
されるからです。

ハガキには「繰下げ受給を希望される方は」右枠内のいずれかを〇で囲んでく
ださい。
・老齢基礎年金のみ繰下げ希望
・老齢厚生年金のみ繰下げ希望
という欄がありますので印をつけて日本年金機構に返送します。

老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を繰下げる人は、ハガキの返送は不要です。
1年以上待って66歳を過ぎたら年金事務所に自分で出向き手続きをします。

■ 増額率は42%以上には増えない─────────────────────

65歳時点で「65歳以降の老齢厚生年金」を受け取る権利がある場合、70歳に到
達した月(70歳の誕生日の前日の属する月)をどんなに過ぎて請求を行っても、
増額率は42%以上には増えません。増額した年金は、70歳まで遡って決定され
支払われます。

■ 年金制度改正の動き────────────────────────

国の社会保障審議会年金部会では、人生100年時代にふさわしい社会保険制度、
年金制度改正が審議されています。(以下議事録より引用)

「70歳までの就業機会の確保に伴い、現在65歳からとなっている年金支給開
始年齢の引上げは行わない。

他方、現在60歳から70歳まで自分で選択可能となっている年金受給開始の時期
については、70歳以降も選択できるよう、その範囲を拡大する。在職老齢年金
制度について、公平性に留意した上で、就労意欲を阻害しない観点から、将来
的な制度の廃止も展望しつつ、社会保障審議会での議論を経て、制度の見直し
を行う。」