8月のニュースレターをUPしました

◆外勤はみなし?◆

「外勤営業職は何時間働いているかなんてわからないから、労働時間を適当にみなして営業手当を払っている。」

 どのくらいの労働時間とみなしているのですか。
 労働時間のみなし制はありますが・・・

 重要ポイント

 外勤職で、労働時間がつかめないからといって簡単に「みなし」労働時間は使えません。みなしが使えても、時間外労働があるならば、割増賃金の支払はしなければなりません。

 事業場外で働くということ

 事業場にいない間、管理の目が行き届かないのだから、労働時間は把握できないだろうと、事業場外のみなし労働時間制が法律上認められています。(労働基準法第38条の2)

 事業場外労働みなし制

 労働基準法は労働時間を把握し、算定した時間に応じて賃金を払うことを求めています。これが原則です。
 事業場外労働みなし制は昭和62年の法改正で新設された規定です。
 事業場外の業務だから、労働時間が把握できないことを認めよう、事業主が本来しなければならない労働時間の把握義務を免除しようというものです。
 労働時間を8時間と「みなす」とは、実際の労働時間が10時間でも、6時間でも8時間働いたものとして賃金を支払うということです。

 単に 外勤職では「みなし」は使えない

 事業場外労働みなし制が適用されるためには、事業場外で業務についていたことに加えて、「労働時間を算定し難い」場合でなければなりません。
 以下の(1)(2)(3)のような場合は事業場外の労働であっても、労働者の労働時間を把握することができるなので、みなし制は使えません。

(1)
  
何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
(2)
  
事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等(かなり古い通達です)によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
(3)
  
  
事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示通りに業務に従事し、その後事業場に戻る場合(直行・直帰ではないということです)

 残業がある外勤営業職の場合

 1人で外勤の営業をして、具体的な業務の指示を携帯電話で頻繁に受けていないような場合であれば、事業場外みなし制は使えます。
ただし、常態として毎日2時間の残業があるような営業職に、「8時間みなし」は適用できません。
 1日10時間の労働時間とみなすことは可能ですが、その場合は時間外労働をさせるということですから、労使協定を結び、監督署に届出をしなければなりません。
 通常必要とされる時間が、9時間なのか、10 時間なのか、営業職でもAさん、Bさんでは違うでしょうから、労使協議により誰もが納得できる適正な時間にする必要があります。

 労使協定の例

第○条

 外勤営業職が、労働時間の全部又は一部を事業場外において業務に従事し、労働時間を算定し難い日については、休憩時間を除き、1日10時間労働したものとみなす。
第□条

 労働したとみなされる時間のうち1日8時間を超える時間に対しては、賃金規程に定める時間外割増手当に代えて、「営業手当」を支給する。

 労使協定のポイント

 外回りの営業職であっても、事業場内で打ち合わせや、業務報告をしていたような日は、労働時間が算定できますから、その日はみなしは使えません(上記第○条)。
 みなし労働時間が法定の労働時間を超える場合には、残業代を払うことを明記し、支払わなければなりません(第□条)。

 添乗員はみなし労働時間制か

 旅行会社の添乗員の業務を考えてみましょう。事業場外の業務であることは確かですが、みなし制度は適用されるでしょうか。
 阪急トラベルサポート事件(東京地裁 平 22.7.2判決)では、業務の性質としてみなし労働時間制の適用は認められましたが、時間外労働等の割増賃金の支払いも命じられました。
 判決は、添乗員の業務を分析し、「添乗員の業務は「労働時間を算定しがたいとき」に該当するが、業務の遂行条通常必要とされる時間は(会社の主張する8時間ではなく)11時間と認められる。」と判示しました。

 みなしでも残業代は払う

 会社側は日当の1万6000円の中に3時間分の割増賃金も含まれていると主張しました。
 けれども裁判所は、「原告と被告との間で、日当に所定労働時間8時間分の賃金と時間外労働3時間分の割増賃金に当たる部分を明確に区分して合意し、且つ、労基法所定の計算方法による額がその額を上回る場合には、その差額を当該賃金の支払期に支払うことを合意したことを認めるに足りる証拠はない」と会社の主張を退け、日当1万6000円÷8時間=2000円で、2割5分増しの1時間当たり2500 円を割増賃金として別途支払うことを命じました。

 添乗員で「みなし」ダメの判決も

 前掲の判決は添乗員の事業場外労働みなしを認めましたが、似たような添乗員の裁判で、「労働時間を算定し難い場合」に当たらないと、業務それ自体としてみなしを認めなかった判決もあります。

 もし契約書がきちんとしていたら・・・

 もし11時間労働が8時間の所定内労働と、3 時間の時間外労働と区分されて、8時間の労働分が10,893 円、時間外労働手当5,107 円(合計1万6000円)を支払うと雇用契約書に明記されていれば、裁判で争うようなことも、割増賃金の支払いを求められることもなかったでしょう。

 まとめ

 外勤職で労働時間なんてわからないからと適当にみなしでやっている、ということはありませんか。
 みなし労働時間制を使うのであれば、通常必要とされる時間を適正に見積もり、きちんと労使協定を結びましょう。
 あいまいにしておくと、営業手当を含めた賃金総額にさらにプラスして残業代を支払わなければならなくなります。

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【スタッフからひとこと】 「育児休業後の短時間勤務
                  社会保険料は高いままですか?

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