「源泉徴収簿ではダメなのですか?」
労働基準監督署から「賃金台帳」の提示を求められた会社の、総務課長の言葉です。
確かに源泉徴収簿には賃金額が書いてあるのですが・・・
重要ポイント
労働基準法は【賃金台帳の調製】を求めています。賃金台帳には労働時間数や時間外労働・休日労働の時間数を記載しておかなければなりません。賃金の額だけの記載ではだめなのです。
賃金台帳についてのキマリ
賃金台帳の作成を求めているのは労働基準法第108条です。
「賃金台帳は、各事業場ごとに作成し、労働者各人別に、賃金支払いの都度遅滞なく記入」しなければなりません。
賃金台帳に書いておかなければならないこと
賃金台帳に書いておかなければならないのは以下の事項です。
① 賃金計算の基礎となる事項 ② 賃金の額 ③ 氏名 ④ 性別
⑤ 賃金計算期間 ⑥ 労働日数 ⑦ 労働時間数
⑧ 時間外労働、もしくは休日労働または深夜労働をさせた場合は、
延長時間数、休日労働時間数および深夜労働時間数
⑨ 基本給、手当その他賃金の種類ごとにその額
⑩ 労使協定に基づいて賃金の一部を控除した場合にはその額
事業場ごとに作成の意味
賃金台帳は、各事業場ごとに作成しなければなりません。
本社で一括賃金計算を行う場合は、事業場ごとに給与明細書など備え付けることで、差し支えないとされていますが、この場合給与明細書は賃金台帳の法定必要記載事項を記入しておく必要があります。
賃金台帳の作成義務
賃金台帳の作成が求められているのは以下の二つの理由によります。
① 国の監督機関が、各事業場の労働者の
労働条件を随時たやすく把握することができること
② 労働の実績と支払い賃金との関係を明確に記録することによって、
使用者のみならず労働者にも労働とその対価である賃金に対する認識を深めさせること
賃金台帳は法定帳簿
労働基準監督官は、「事業場、寄宿舎その他の付属設備に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め」ることができます。賃金台帳はこの帳簿の一つです。
労働基準法では、解雇予告手当や休業手当の支払いを行う場合、平均賃金の算定が必要となります。賃金支払いの都度遅滞なく必要事項を記入した賃金台帳を作成することは、平均賃金の算定のためにも求められています。
賃金台帳か給与台帳か
「賃金」という言葉は昭和14年の賃金統制令からきているようです。
戦前においては、「賃金」とはブルーカラー(労働者・労務者)に対して使われる用語で、ホワイトカラー(職員)の給与とは明確に区別されていました。
賃金台帳は第二次賃金統制令の29条に初めて登場しました。
戦時下にあって、賃金統制を確実に行うため、行政官庁が随時報告を求め、臨検検査を行う必要があり、そのために、賃金支払い実態を明らかにする書類として、雇用主に賃金台帳の作成義務が課されていました。
賃金の定義は戦前にも
労基法11条で、賃金とは、「賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの」と定義されています。
賃金統制令の賃金の定義で類似の規定を見ることができます。
「本令ニ於テ賃金ト称スルハ賃金、給料、手当、賞与其ノ名称ノイカンヲ問ワズ労働者ヲ雇用スル者ガ労働ノ対償トシテ支給セル金銭、物其ノ他ノ利益ヲ謂ウ」
民法では「報酬」
「雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる」(民法623条)
労基法では賃金ですが、民法ではこのように報酬という言葉を使っています。
賃金台帳への年次有給休暇の記入
年次有給休暇を取得した場合には、休暇の日数、時間数は、実際に従事した日数および労働時間数とみなしてそれぞれ該当欄に記入し、その日数および時間数を別掲し括弧をもって囲んで記入するように要請されています。
賃金台帳の様式
賃金台帳は、常時使用される労働者については様式20号、日々雇い入れられる者については様式21号によって調製することになっています。
様式は必要な事項の最小限度を記載すべきことを定めるものであって、必要事項が漏れなく記載されていれば、任意の様式で作成してかまいません。
賃金台帳の保存期間
賃金台帳は大事な法定帳簿ですので、保存期間について定めがあります。
賃金台帳は3年間保存しなければなりません。賃金台帳の保存期間の起算日は、「最後の記入をした日」です。
賃金台帳を作成しないと・・・
賃金台帳を作成しない、または賃金台帳に必要記載事項を記載していない場合は、30万円以下の罰金に処せられます。(参考:「労働基準法 労働法コンメンタール」労働行政 「賃金規制・決定の法律実務」 中央経済社)
その他の記事
ト ピ ッ ク ス 雇用調整助成金の不正受給
企業名が公表 されています
雇用調整助成金は、企業の雇用維持を図るため、休業手当の一部を国が助成する制度で、リーマン・ショック後支給要件が緩和され、多くの中小企業がこの助成金で、雇用を維持した。
厚生労働省は2011年2月からこの助成金を不正受した企業の名前を公表している。2011年2月から2013年10月までの2年8か月で全国で570社が不正受給し、不正受給累計額は107億円にのぼった。
新潟労働局のホームページから県内の不正受給した企業名を見ることが出来る。県内の情報サービス業の会社が、教育訓練を実施したように偽って、1億円以上の助成金を不正受給したという。もちろん返還しなければならず、悪質な場合には、刑事告訴の対象となる。
雇用の維持に役割を果たした雇用調整助成金だが、最近は支給要件が厳しくなっている。
「雇用維持」から「労働移動支援型」に助成金も大きく変わろうとしている。雇用調整助成金のような高額な助成金が創設されることはないと思われる。
シリーズ労働法の言葉 ~ 最低賃金 ~
労働者に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障(憲法25条)する趣旨で、賃金の最低額が定められています。
最低賃金より低い賃金による労働契約は、不足賃金額の部分のみ無効で、自動的に最低賃金法による金額が適用されます。
新潟県の最低賃金は、現在701円です。
【スタッフからひとこと】 ご存知ですか?
「養育期間標準報酬 月額特例申出書」
3歳に満たない子を養育し、復帰後勤務時間の短縮等で働いている被保険者に、将来の年金額が不利にならないようにする特例措置があります。
保険料は実際の報酬月額を支払いますが、養育開始前と同じ標準報酬月額であるとみなすものです。 「養育期間標準報酬月額特例申出書」を年金事務所に提出します。
育児休業関係の手続きはややこしい・・・
【 労働関係法令の基礎知識 】
医療ソーシャルワーカー研修 12月□日
「目からうろこの話でした」
友人が医療ソーシャルワーカーをしている。彼女の依頼で、ソーシャルワーカーの就労支援研修の一環として、労働関係法令の研修をさせてもらったのだが、その参加者からいただいた感想である。
病院の医療相談室で、医療の相談、社会保険の制度の相談、そして就労支援も行っているソーシャルワーカー。今回は特にがん 患者へのヒアリング、就労支援をどう行うかが研修課題だった。
私は、期間の定めのある労働契約と期間の定めのない契約の違い、期間の定めがある労働契約でも解雇は簡単に行えないこと、会社の休職制度の知識が病気のときは重要、などの話をした。これからますます高齢者が就労するようになり、病気を抱えながら働く人が増えることが予想される。病気を抱えてどう働くか、新しい大きな課題だ。