中国の労働事情

3月半ば、上海への人事労務研修ツアーに参加しました。
上海では、高層ビルが立ち並び、道路は高級車で満ち、社会主義の国とは思えない華やかな都会の景色を見ることができました。ファミリーマートや吉野家の看板も随所に。
一方、賃金が上昇し、上海での製造業進出は難しくなっていること、社会保険の制度ができて外国企業に対する圧力がかかってきていることも知りました。労使慣行や賃金に対する考えの違いから、さまざまなトラブルが起きていることも知りました。
今回は中国についてレポートします。

中国、労働事情、新潟、社会保険労務士

 重要ポイント

労働契約法ができ、賃金も上がり続けている中国。
労使慣行や、法律を知り、就業規則や労働契約に基づいてきちんと労務管理をしないと、中国のビジネスは難しくなっています。

 経済成長続く中国

GDP(将来的には7%)の中国。中国一番の商業都市である上海で働く日本人は5万人。出張者を入れると8万人くらいだろうといわれています。
賃金は毎年毎年伸びていますが、GDP伸び率に比べて賃金の伸び率は低下しており、物価上昇も半端ではないので、多くの人は生活が苦しいと感じているようです。
上海のマンションは高値で売買されていて、日本のバブルが思い出されます。
経済の急速な発展、1980年代からの開放改革政策で貧富の差が拡大しており、低所得者層からの政府批判が大きくなるのではないかと心配されてもいます。

 中国の人材

中国の労働者は、72%が5年以内に転職を計画しているといいます。上海ではその数字はもっと高く78%。転職予定人口はアメリカが48%、世界平均が57%ですから、中国ではきわめて転職志向が強いといえます。
転職したいという、その理由のトップはなんといっても収入を大きく増やすことです。ただ、お金ばかりでなく、生活や余暇を楽しみたいという傾向も現れてきていると伺いました。

 中国の労働者の特徴

地元新潟で中国の労働者を雇っている経営者の方から、「給料日に彼らは給与を見せ合って、残業代などで違いがあるとすぐに問いただしてくる」とお聞きしていました。
現地で長くビジネスをしている日本人の複数の方が口をそろえていう言葉、
「中国ではお互いの給与を見せ合うことは当たり前」
昇給、賞与の時には直接交渉が行われ、さまざまな要求をしてくるが、契約で約束した自分の仕事以外はしようとしないそうです。また、仕事で得た情報を同僚仲間で共有しない、部下の育成や指導をしないとも聞きました。
「この会社に入社した以上、いろいろな仕事を経験し成長したい。」などという日本とはなんという違いでしょう。
優秀な中国人は2年か3年でスキルを上げて転職したい、収入を増やしたいと考えているのです。その要望に応えない日系企業は中国で人気がありません。

中国の労働契約法

2008年1月1日から中国では労働契約法が施行されています。
労働契約法によると労働契約は、雇用の日から1カ月以内に書面で締結しなければなりません。
書面で労働条件を明示しなければならないというのは日本の労働基準法にもありますが、試用期間のキマリは大きく違います。
契約期間が3カ月以上1年未満であれば、試用期間は1カ月。
契約期間が1年以上3年未満であれば、試用期間は2カ月。
契約期間が3年以上及び固定期間のない労働契約の場合は、試用期間は6カ月までと定められています。
試用期間中に採用条件に合致していないことが証明されれば、即時に契約を解除することができるのです。ですから、労働契約の期間をどうするかは、試用期間の絡みで採用担当者の頭の痛い問題となっています。

中国の退職後の所得保障

中国の労働契約法では退職後の所得保障として【経済補償】をしなければなりません。
1年勤務した労働者に退職時に賃金1カ月を支払うというものです。2年なら2カ月、3年なら3カ月・・・最高で12カ月までの経済補償です。
転職志向が強く、労働契約の解除は日本に比べて簡単ですが、この【経済補償】は使用者にとってかなりの負担のように思われます

中国の年次有給休暇制度

年次有給休暇については企業従業員年次有給休暇条例で定められています。
「年次休暇の期間中、従業員は通常労働時間と同額の賃金収入をもらうことができる」のですから、休んでも有給となるということで日本の年次有給休暇と同じです。
累積勤務年数が1年以上10年未満の場合、5日。
10年以上20年未満の場合、10日。
20年以上の場合、15日。
と決められていて、年次有給休暇の繰越制度はありません。付与の要件が累積勤務年数なので、新入の従業員でも15日の年次休暇を与えなければならないということも起こります。

中国人との労働トラブル

中国では労働者の権利意識が高まり、労働紛争が急増しています。
中国人労働者と労働契約書を交わしたのに交わしてないといわれて裁判になった経験をした日本人駐在員の方は、それ以降、労働契約書のサインはその場で見ているところでさせることにしたそうです。家に持ち帰って本人以外の人がサインした契約書類は無効だからです。
日本でも 情報報漏えい防止のための規定を就業規則の服務規律で規定していることが多くなっています。
中国では知的財産権に対する意識が低いので、「会社のパソコンを私用に使わない。システム破壊、データのコピーは行わない」と書面にサインさせて、IP ガードも徹底し、情報漏えいを防いでいるという話も聞きました。
中国にも二審制の裁判制度がありますが、労働者側の勝訴率が高いそうです。
現地で中国人の労務管理をしている日本人駐在員の方は、「裁判になっても負けないように、就業規則の懲罰規定は具体的に厳格にしている」とおっしゃっていました。
日本の企業は中国進出に当たって賃金の設定が低すぎ、労働トラブルの原因のひとつになっているとのことでした。中国は、今、安くて豊富な労働力がある国ではありません。

 その他の記事

 ト ピ ッ ク ス

パートの社会保険加入   政府民主方針 平成24年3月13日
パートタイマーを社会保険に加入させようという動きは数年前からあったが、いよいよ具体的になってきた。

平成24年4月の新潟県の保険料率で試算 : 円
 月給与 78,000
 社会保険料 ▲12,896
  (健康保険 3,861)
  (介護保険 604)
  (厚生年金 8,041)
  (雇用保険 390)
 差引手取額 65,104

週の労働時間が20時間以上、年収94万円(月額  78,000円)以上、雇用期間が1年以上で、従業員501人以上の企業に勤務する者に、平成28年から適用しようという案である。
時給975円で週20時間、月80時間働くと月給与は78,000円となる。現在そのようなパートタイマーの多くは、雇用保険のみ加入して、健康保険は夫の扶養となり、年金は第3号被保険者となっていて、社会保険料の負担はゼロである。
加入した場合は、右の表のようになって、手取りは大きく減る。加入のメリットは、厚生年金が少し増え、出産や病気のときに手当金がもらえることだけ。

週19時間にしたり、雇用期間を11カ月にしたり、そんな契約が増えるかも・・・。

 シリーズ  年   金

~ 70歳の資格喪失 ~
社会保険に加入している人が、70歳になると、健康保険はそのままで、厚生年金保険だけ70歳に達した日(誕生日の前日)に資格を喪失します。
社会保険の70歳資格喪失届(厚生年金保険のみ)をしさらに厚生年金70歳以上被用者該当・不該当届をします。
年金保険料の負担がなくなっても、報酬により受給している年金を減らすという仕組みがあるためのにこの届出をするのです。

 人事労務の素朴な疑問

入社誓約書はとるべき?
入社のときに「就業規則を遵守します」という誓約書をとることは重要です。
出向や懲戒については、労働者の同意が必要とされ、使用者は当然に労働者に命ずることができないのです。
入社の際、誓約書をとることで、包括的同意があったということになり、命令ができます。

【サブロク協定って何?】  3月○日業務日誌より

 「サブロク協定という言葉は知っていたが、意味はよくわからなかった。今回の研修はわかりやすく、残業のことやサブロク協定のことが理解できた。今後の業務で生かしていきたい」「これからもこのような研修を行ってほしい」
4月から時間外・休日労働の届出と1年単位の変形労働時間制の届出をする会社で、協定の結びなおしを前に、研修をさせていただいた。対象者はリーダー以上で、【サブロク協定ってなに?==リーダーとして知っておきたい労働時間の基礎知識】というタイトルである。研修の最後には、従業員代表として選ばれて協定にサインをした方から、一言ご挨拶もいただいた。
研修のあとのアンケートで、冒頭のような励みになる感想を書いていただいた。とても嬉しい。
微力ながら労務環境の向上にお役に立てた気がする。熱心な聴講、ありがとうございました。