妊産婦への配慮

 「出産予定日まで3か月もあるのに、従業員が休みたいといってきた。希望を受け入れようと思うけれど・・・」
身体的にきつい業務だし、本人の希望を受け入れて、早めの休業を認めることとしたいが、気をつけることはないかというお問い合わせでした。
妊産婦の保護は求められていますが・・・

妊娠、出産、労働基準法、新潟、社会保険労務士

 重要ポイント

6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性従業員が休業を請求した場合に会社は、産前休暇を認めなければなりません。
それより長い産前休暇は、法律上、与えなくてもかまいません。 (もし請求がなければ 産前の6週間の休暇も与えなくてもかまいません。)

 労基法の女性保護

平成9年の労働基準法改正以前は、女性労働者について、時間外・休日労働の制限、深夜労働の禁止など、女性を保護する規定がありました。
現在、労働基準法は女性労働者の妊娠・出産・保育という母性に関する部分の保護を求めていますが、それ以外の女性保護規定はなくなっています。
ちなみに育児・介護休業法は女性を保護するものではありません。男女ともに子育てをしながら働き続けることができる雇用環境を整備することを目的としています。育児・介護休業法は、男性女性を問わず、申出があった労働者に、各制度の適用を求め、不利益取り扱いを禁止しています。

 産前の休業は申出により与えるもの

「6週間(多胎妊娠の場合にあっては、14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合に、就業させてはならない」(労基法第65条第1項)
産前の休業は本人が請求した場合に与えられる休業です。
出産日(出産予定日より遅れた場合は予定日)以前42日から健康保険の出産手当金が支給されます。
冒頭の質問のような、出産まで3か月という人の休業を認めるかどうかは会社の自由です。

産後の休業は与えなければならないもの

「産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合、医師が支障が無いと認めた業務に就かせることは差し支えない」(労基法第65条第2項)
産前と違い、 産後8週間は本人の請求にかかわらず、与えなければならない休業です。
出産日後56日間は健康保険の出産手当金が支給されます。

 出産の範囲

出産は妊娠4カ月以上(1カ月は28日として計算、85日以上のこと)の分娩とし、死産も含みます。正常分娩以外の早産、流産、死産も「出産」にあたり、産前産後休業の対象となります。

 産前産後の賃金

産前産後は無給とし、健康保険から給付を受けるのが一般的ですが、年次有給休暇を請求された場合にどうすればよいでしょう。
年次有給休暇は、本来働かなければならない日の労働義務を免除するものです。
産前の休業を請求せず、年次有給休暇の請求があった場合には、年次有給休暇は与えなければなりません。
産後の休業は法律上与えなければならないもので、労働義務が無い日です。会社の休日に年次有給休暇を請求できないのと同じで、産後休業の間に年次有給休暇を請求することはできません。

時間外労働の制限

妊産婦が請求した場合には、変形労働時間制によっても法定労働時間を超える労働をさせてはなりません。非常事由、または36協定による時間外休日労働をさせてはなりません。
さらに、妊産婦が請求した場合においては深夜業をさせてはなりません。(労基法第66条)
時間外・休日・深夜労働が妊産婦に悪影響を与えるという母性の保護の趣旨で設けられている規定です。

 育児時間

「生後満1年に達しない生児を育てる女性は、1日2回それぞれ少なくとも30分、生児を育てるための時間を請求することができる」(労基法第67条)
育児休業や育児短時間勤務の取得者が増えると、労基法にこのような規定があったことは忘れられがちです。この育児時間の規定は、女性労働者が生後1年未満の生児を哺育している場合、授乳その他のさまざまな世話のために要する時間を、一般の休憩時間とは別に確保しようという規定です。
この規定は8時間労働を想定しているもので、1日の労働時間が4時間以内のような場合は1日1回の育児時間を与えればよいものです。育児時間をいつ与えるかについては自由ですし、1回にまとめて1時間とることも問題ありません。時間外労働、産前休業、育児時間など、いずれも本人の請求により保護されるという規定です。

 生理休暇

「生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その者を生理日に就業させてはならない」(労基法第68条)
生理休暇は、女性労働者から請求があった場合には与えるもので、厳格な証明を求めることは適切ではありません。法文上は「休暇を請求したとき」となっていますが、必ずしも暦日単位としなければならないものではなく、半日又は時間単位で請求した場合日は、その範囲で就業させなければ問題ありません。

 軽易業務への転換

「妊娠中の女性が請求した場合においては、他の軽易な業務に転換させなければならない」(労基法第66条第3項)
請求があれば軽易な業務に転換させなければなりませんが、軽易業務の種類などについては法律上の規定はありません。新たな業務を創設してまで軽易業務を付与する義務はありません。

 まとめ

産後の休業は必ず与えなければなりませんが、それ以外は本人の請求があったときに行わなければならないものです。
軽易業務への転換ができない職場などでは、早めの休業を認めることを制度として認めてもよいと思います。ただ、法的義務があるものではないので、 「2年以上の継続勤務があって、会社が認めた場合に限るものとする。」
など一定の要件を満たした者に認めるとすべきではないでしょうか。

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