健康診断を受けないと?

 「健診受けないと賞与15%減」
コンビニエンスストア大手ローソンが、健康診断を受けない従業員の賞与を15%減額する制度を導入すると報道されました。(2012年12月24日新聞各社)

 ちょっとドキっとするこの制度、果たしてどんな意味があるのでしょう。

重要ポイント

健康診断を従業員は受ける義務がある。
賞与をどう払うかについては事業主に裁量があるが、今回のローソンのケースでは、健診を受けることを通知し、それでも受けない場合に賞与を減額するという経過を追った措置とされている。

ローソンの賞与減額の詳細

ローソンは2013年度から、定期健康診断を受診しなかった従業員の賞与について、15%減額する。直属の上司の賞与も10%減額する。
毎年春に健康診断を実施しているが、13年度上期(13年3~8月)に健診を受けなかった従業員に下期(同9~14年2月)に3回程度、健診を受けるように通知をする。それでも受けないと14年度上期の賞与を減らす。
2011年度の健康診断の受診者は83%にとどまっているが、受診率を上げて、健康を害して仕事を続けられなくなるケースを減らすことが目的。(新聞報道等からのまとめ)

健康診断は実施する義務がある

多くの会社では毎年一定の時期に、当たり前のこととして定期健康診断を実施していると思います。
定期健康診断は労働安全衛生法という法律で、実施が義務付けられているのです。
会社は健康診断により、従業員の健康状態を把握・管理した上で働いてもらうのです。
実施後、健康診断の結果は従業員に通知しなければなりません。
もし、健康診断で異常の所見があった場合には、そのまま同じように勤務させて良いのか、業務に制限を加える必要があるのか、休業をさせる必要があるのか、医師の意見を聞かなければなりません。
健康診断の実施は従業員に健康な状態で働いてもらうために、事業主に課せられている重要な事柄です。必ず実施ですから、「私はお金がないので検診できません」ということがあってはならず、健康診断の費用は事業主が負担しなければなりません。
定期健康診断を行わないと、事業主に罰則が課されてしまいます。

健康診断の受診義務

従業員は会社が実施する健康診断を受けなければなりません。
「健診を受けない従業員がいる・・・」
そんな問い合わせには、「健康診断は法令で定められているもので、会社が費用を負担し、実施している。働いている以上、義務として受けなければならないものだとお伝えしてください」と申し上げています。
「受けたくない」という人には、会社が行う健診の意味をしっかりと伝えて受けてもらいましょう。
会社のキマリですから、就業規則には 定期健康診断は必ず受診するように規定しておくことも重要です。さらに、受診しない場合には懲戒処分もあると規定しておくこともできます。

健診はパートにも?

コンビニエンスストアなどでは、パート社員も多いと思います。
健康診断は常時使用する労働者について行わなければならず、以下であれば、パートやアルバイト社員にも行わなければなりません。
1 フルタイムの従業員の4分の3以上の労働時間で働く人
2 有期雇用であっても1年以上の雇用が見込まれる人

上司まで減らすという意味

今回の報道では健康診断を受けなかった場合、従業員本人のみならず、直属の上司まで10%減額とするということも注目されます。
部下の管理・監督は上司の仕事ですが、部下の健康に配慮することも上司の仕事だと嫌でも知らされることになりそうです。

減額する手続き

賞与を減額するという厳しい制度が導入されるわけですから、あらかじめきちんと知らせてから実施することが重要です。
今回は「13年度上期(13年3~8月)に健診を受けなかった従業員に下期(同9~14年2月)に3回程度、健診を受けるように通知をする。それでも受けないと14年度上期の賞与を減らす。」 というものですから、手続きとして妥当だと思います。
このような記事を読んで、こんなふうに賞与減額ができるのだと、イキナリ安易に真似ることは避けなければなりません。

賞与を減らすという意味に注意

賞与の減額という思い切った制度で、健康管理をきちんとしてもらおうという今回の措置ですが、減額する時には注意が必要です。
制裁として減額をする場合には労働基準法で制限があります。
「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない」(労基法第91条)
また、以下のような通達もあります。
「制裁として賞与から減額することが明らかな場合は、賞与も賃金であり、法第91条の減給の制裁に該当する。したがって賞与から減額する場合も1回の事由については平均賃金の2分の1を超え、また、一賃金支払期における賃金、すなわち賞与の額の10分の1を超えてはならないことになる。」(昭和63.3.14 基発150号)
ただし、勤務評価によって賞与の額を決定することは可能で、この場合には「減給の制裁」に該当しません。法律が減給の制限をしている理由は、労働の結果一旦発生した賃金債権を減額することは、その額が多額になると労働者の生活を脅かすおそれがあるからです。

まとめ

健診に無関心な従業員が多い会社では、今回の報道、参考になるのではないでしょうか。

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