70歳まで就業?

★★ 70歳まで就業? ★★

「70歳までの就業機会確保」という方向性が未来投資会議で先日示されました。

「就業機会確保」であって「雇用確保」とは言っていません。

高齢者の就業機会確保に向けて、国はどのような施策を打ち出そうとしてい
るのでしょう。

■ 重要ポイント────────────────────────

1人1人異なる高齢者の能力・事情に応じた活躍を図るため、従来の65歳ま
での雇用確保措置に加えて、70歳まで、企業が多様な選択肢を用意し、企業
が個々の高齢者と相談し、選択できるよう、施策が打ち出される方針が示され
た。(2019年5月15日第27回未来投資会議)

■ 70歳までの就業機会確保の方針─────────────────────

「人生百年時代の到来は、大きなチャンスです。元気で意欲ある高齢者の方々
に、その経験や知恵を社会で発揮していただくことができれば、日本はまだま
だ成長できる。生涯現役の社会に向かって、六十五歳まで継続雇用することと
している現行制度を見直し、七十歳まで就労機会を確保できるよう、この夏ま
でに計画を策定し、実行に移します。」

(第198回国会安倍内閣総理大臣施政方針演説)

「人生100年時代を迎え、働く意欲がある高齢者がその能力を十分に発揮
できるよう、高齢者の活躍の場を整備することが必要。」としています。

■ 7つの選択肢────────────────────────

65歳から70歳までの就業機会確保として次の7つが想定されるとしています。

(1)定年廃止

(2)70歳までの定年延長

(3)継続雇用制度導入
(現行65歳までの制度と同様、子会社・関連会社での継続雇用を含む)

(4)他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現

(5)個人とのフリーランス契約への資金提供

(6)個人の起業支援

(7)個人の社会貢献活動参加への資金提供

■ 予定されている法整備────────────────────────

第1段階

(1)から(7)の選択肢を明示した上で、70歳までの雇用確保を努力規定
とする。

(2) 必要があると認める場合は、厚生労働大臣が、事業主に対して、個社
労使で計画を策定するよう求め、計画策定については履行確保を求める。

2020年の通常国会において、第一段階の法案提出を目指す。

第2段階

その上で、第一段階の雇用確保の実態の進捗を踏まえて、多様な選択肢のいず
れかについて、現行法のような企業名公表による担保(いわゆる義務化)のた
めの法改正を検討する。

■ 年金の支給開始年齢は────────────────────────

気になる老齢年金の支給開始年齢は、65歳より先になるのでしょうか。それに
ついて、「70歳までの就業機会の確保に伴い、年金支給開始年齢の引上げは
行わない。他方、年金受給開始年齢を自分で選択できる範囲(現在は70歳ま
で選択可)は拡大する。」としています。

■ フリーランス契約による働き方────────────────────────

7つの選択肢の5番目にフリーランス契約による働き方を企業が資金提供する
ことが挙げられています。

未来投資会議の内閣官房日本経済再生総合事務局資料(以下事務局資料)によ
ると、日本の「フリーランサー」の年齢構成では40代以上の者が半分以上を占
めていることや、「雇用的自営等」が増加していることが報告されています。

さらに会社員と個人事業主・フリーランスの満足度比較において、個人事業
主・フリーランスのほうが、仕事の「達成感・充実感」や、「スキル・知識・
経験の向上」で高い満足度があることが紹介されています。

※「雇用的自営等」とは:取引先の指揮命令を受けるため、独立して働いてい
るとは言いづらいけれども法律的には自営業である人。
建築技術者、IT技術者、運搬等従事者、建設等従事者など。

■ 個人の起業支援────────────────────────

事務局資料は、副業を希望する者は、近年増加傾向にあるが、実際に副業があ
る者の数は横ばい傾向であること、兼業や副業が他業種での経験を積む機会に
もなっていると評価しています。

さらにスウェーデンではハイテク産業の起業家のうち、4割が副業で起業して
いると伝えています。

高齢者には兼業・副業を認め、起業を促し、組織に縛られないでフリーランス
で働くことを推し進めようとしているようです。

■ フリーランスなどで働くことの問題───────────────────

「フリーランスは、労働基準法や労働安全衛生法などが適用されず、働く者が
保護されていない。」「「兼業・副業」については、労働時間の通算などの課
題も多く、それらの克服なしに政府が旗を振るべきものではない」

(未来投資会議 日本労働組合連合会会長 神津 資料)

連合はブレーキをかける資料を提出しています。
企業としては「雇用」の形態をとらないことで、人件費を安くし、社会保険料
負担を避けられるといったメリットがある一方で、フリーランス等で働くと、
労働者として保護されないというデメリットや医療や年金保険制度が労働者に
比べて不利な制度になっていることに注意しなければならないと私も思います。

■ 複数の事業所で働く場合の問題と解決に向けて────────────

この未来投資会議には厚生労働省が提出した資料も確認できます。

厚労省としても副業・兼業は促進するとしていますが、「複数の事業主の下で
働く場合の労働時間管理について、長時間労働を防ぎ、労働者の健康を確保す
ることに十分留意しつつ、副業・兼業の促進に資するよう、健康確保の充実と
労働時間管理の在り方について検討」
「複数の事業所で働く方の保護等の観点から、労災保険給付の在り方、雇用保
険及び社会保険の公平な制度の在り方について引き続き検討」としています。

1か所の事業所の労働時間が20時間未満の場合は、社会保険にも雇用保険に
も加入できません。複数の事業所で働いているため、社会保険に加入できず、
いくつかの事業所で働く結果、労働時間が健康を害するような長時間労働にな
ってしまう恐れもあります。

■ 人生100年時代の年金制度────────────────────────

未来投資会議に厚生労働省が提出した資料には、「人生100年時代」への公
的・私的年金制度の対応が示されています。

「より長く多様な形となる就労の変化を年金制度に取り込み、長期化する高齢
期の経済基盤を充実」するとしています。

具体策はこれから。注視していきましょう。