何歳まで雇用しますか

★★ 何歳まで雇用しますか ★★

「定年は65歳にしなければならないのでしょうか」
4月からの法改正を誤解している方も少なくないようです。

■ 重要ポイント ────────────────────────

4月から「70歳までの就業機会確保」が努力義務となります。

60歳定年は従来通り認められていますが、シニアの雇用を問い直す時期がきて
います。

■ 定年とは ────────────────────────

広辞苑によれば定年制とは 「一定の年齢に達すると退職することを定めた制
度」です。

若い人材が豊富だった時代に新卒の一括採用、年功序列と終身雇用という雇用
慣行ができ、定年退職まで勤め上げることが美徳とされました。

定年時には年功的に金額が増えた退職金が準備されていました。

(ここで想定されているのは男性正社員で、女性はこの雇用慣行には入ってい
ませんが。)

■ 欧米に定年はない ────────────────────────

欧米諸国では「年齢差別禁止法」が従来から存在していて、原則として定年制
は禁止されています。

アメリカ 1967年「雇用における年齢差別禁止法」成立。
英国 2006年「雇用均等(年齢)規則」施行。など。

■ 平均寿命と定年 ────────────────────────

定年までの長期の雇用関係を前提とした終身雇用という言葉が生まれた頃(19
60年代前半)の平均寿命は男性がだいたい65歳、女性が70歳でした。そのころ
は55歳定年が主流でした。

55歳定年は今の感覚では若いですが、寿命との関係では、男性は定年後10年で
平均寿命の年齢を迎えたことになります。

2018年の平均寿命は男性81.25歳、女性は87.32歳です。寿命が15年以上も延び
たのです。平均寿命マイナス10を働き続けるべき年齢と考えると、70歳少し過
ぎた年齢までということになります。

■ 高年齢者雇用安定法の変遷 ──────────────────────

下回ってはいけない定年年齢や高齢者の雇用確保を定めた法律が高年齢者雇用
安定法です。

1985年、55歳定年が主流だったころに60歳定年が努力義務となりました。

1994年、60歳定年(定年を定める場合には、60歳を下回ることができない)が
義務となりました。

2013年、65歳までの雇用延長が義務化されました。定年は60歳でよいのですが、
次のいずれかの高年齢者雇用確保措置を講じなければならなくなりました。

(1) 定年の引き上げ
(2) 継続雇用制度の導入
(3) 定年の定めの廃止

■ 2021年4月改正の高年齢者雇用安定法 ─────────────────

65歳から70歳までの就業機会を確保するため、高年齢者雇用確保措置として、
以下の(1)~(5)のいずれかの措置を講ずることが努力義務となります。

(1)70歳までの定年引上げ

(2)70歳までの継続雇用制度の導入

(3)定年の廃止

(4)70歳まで継続的に業務委託を締結する制度の導入

(5)70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入

a 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b 事業主が委託・出資等する団体が行う社会貢献事業

※(4)(5)は創業支援等措置(雇用以外の措置)で、労働者の過半
数を代表する者等の同意を得たうえで導入されることが求められます。

■ 高年齢雇用継続給付ができたころ ───────────────────

60歳から65歳までの雇用継続を援助・促進することを目的に1995年4月1日、高
年齢雇用継続給付の制度が創設されました。

60歳時点で賃金が75%未満に低下した状態で働いている場合に雇用保険から最
大で下がった給与の15%の給付が受けられるというものです。

6割に下げると最高の給付金が受給できる制度で、雇用継続の援助・促進とい
う目的だったとはいえ、賃金を6割程度に下げて雇用することを推奨すること
になる制度として現在も続いています。

■ 高年齢雇用継続給付の改正 ──────────────────────

2025年からこの高年齢雇用継続給付は、下がった給与の15%から10%に下がる
ことが決まっています。高年齢者雇用継続給付は役割を終えようとしているの
です。

■ 年金の受給開始年齢の変化 ──────────────────────

現在80歳以上の男性は60歳から報酬比例部分と定額部分の年金が受給できまし
た。

次第に定額部分の支給開始年齢が60歳から61歳、62歳…と先送りされて行きま
した。次には60歳から65歳まで報酬比例部分しかもらえなくなり、さらに現在
67歳男性(昭和28年4月2日以降生まれ)からは60歳になっても報酬比例の年金
ももらえず、61歳以降からの年金受給となりました。若くなるごとに62歳、63
歳…と先送りされ、昭和36年4月2日生まれ以降の男性は65歳まで全く年金がも
らえません。

年金が60歳台前半受給できた頃は、在職老齢年金と高年齢雇用継続給付の受給
を考え、手取り額で有利な金額の賃金設計をする企業が多くありましたが。

■ 年金の受給開始時期の選択肢の拡大 ──────────────────

65歳から受け取る老齢年金は、65歳よりも遅く受け取り始めると(繰下げ受
給)割増した年金を受け取ることができます。

現在70歳まで年金の受給年齢を繰下げることができ、割増した年金額となりま
すが、2022年からは75歳まで繰り下げることが可能になります。繰下げ年齢を
先にすることにより、さらに有利な料率になり増額された年金を受給すること
ができるようになります。

長く働いて年金はより高い年齢で受給することが奨励されるのです。

■ 60歳定年はダメではない ────────────────────────

70歳までの就業確保措置が努力義務になるとはいえ、定年を60歳に据え置くこ
とは認められています。

65歳定年の義務化ではありません。

60歳定年を1階とすると、65歳までの希望者全員の継続雇用(2階部分)はその
ままで、4月以降はさらに3階部分の70歳までの就業機会確保の努力義務が追加
されるのです。

■ 60歳で一律6割は問題となる ──────────────────────

高年齢者雇用継続給付は活用が難しくなり、在職老齢年金もなくなります。

労働契約法等では、正社員と有期雇用労働者の間の不合理な労働条件の相違を
禁止しています。

年齢に関係ないシニア世代の多様な働き方をどうするか、法改正を機に問い直
す時期がきています。