退職金は何のため?

★★ 退職金は何のため? ★★

厚生労働省はモデル就業規則の退職金の箇所を改正しました。

なぜどのように改正したのでしょう。

■ 重要ポイント ────────────────────────

政府は成長分野への労働移動を円滑に進めようとしています。

その施策の一つとして、自己都合退職が不利になる従来のモデル就業規則を変
更しました。また、20年以上の長期勤続で優遇されている退職金課税も見直さ
れようとしています。

■ 退職金は賃金 ────────────────────────

退職金は退職時に発生する権利です。

退職金の支給は法律上の義務ではありませんが、会社が退職金制度を設けた場
合は、労働基準法の「賃金」となり、支払い義務が生じます。

どのような退職金制度を定めるか(定めないか)は会社の自由ですが、定める
のであれば、「適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払い
の方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項」を定めなければなりませ
ん。

■ 退職金の性質 ────────────────────────

退職金は

(1) 賃金の後払い

(2) 功労報償

(3) 退職後の生活保障

などの性質があります。

多くの会社では自己都合退職と会社都合退職で2種類の金額を設け、自己都合
退職には減額の規定を設けています。自己都合だと不利になり、定年まで勤め
あげて退職金が増える退職金制度により、会社に長期勤続してもらいたいとい
う狙いがあります。

■ 退職金の支払い方法 ────────────────────────

退職金制度は企業の8割であり、企業規模が300人以上になると9割以上で制度
があります。

支払い方法は退職一時金と退職年金、その両制度の併用があります。

■ 非課税措置 ────────────────────────

退職により一時的に受ける退職金は、税法上退職所得となります。

退職所得の金額は「その年中の退職手当等の収入金額から退職所得控除額を控
除した残額の2分の1に相当する金額」とされ、退職所得控除額は以下となって
います。

(1) 勤続年数が20年以下である場合
40万円に当該勤続年数を乗じて計算した金額

(2) 勤続年数が20年を超える場合
800万円と70万円に当該勤続年数から20年を控除した年数を乗じて計算した額
との合計額

勤続年数が20年を超えると非課税の優遇措置が増す仕組みとなっています。
長く働いてもらう退職金はお得なのです。

■ モデル規則改正の背景 ────────────────────────

政府は成長分野への労働移動の円滑化を図るため、令和5年5月16日付の新し
い資本主義実現会議の「三位一体の労働市場改革の指針」で以下のようにいっ
ています。

退職所得課税については「20年を境に控除額が40万円から70万円に増額され
るが、労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘があるため、制度変更に伴う
影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。」

自己都合退職に対する障壁の除去として、「民間企業の例でも、一部の企業
の自己都合退職の場合の退職金の減額、勤続年数・年齢が一定基準以下であれ
ば退職金を不支給、といった労働慣行の見直しが必要になりうる」「その背景
の一つに、厚生労働省が定める『モデル就業規則』において、退職金の勤続年
数による制限、自己都合退職者に対する会社都合退職者と異なる取り扱いが例
示されていることが影響しているとの指摘があることから、このモデル就業規
則を改正する。」

成長分野に労働者が移動する施策としてこのような見直しがされるのです。

■ iDeCoの見直しも ────────────────────────

会社に長期勤続して退職金を得るのではない資産形成として、上記指針では、
「個人が掛金を拠出・運用し、転職時に年金資産を持ち運びできるiDeCo(個
人型確定拠出年金)について、拠出限度額の引上げおよび受給開始年齢の上限
の引上げについて、2024年の公的年金の財政検証に併せて結論を得る。」とし
ています。

■ 退職金規程の変更は慎重に ──────────────────────

モデル就業規則が変更されたからといって会社の就業規則(退職金規程)を変
更する必要はありません。

ただ『わが社の退職金は何のため?』と退職金規程を再考する機会かもしれ
ません。

退職金の支給額が減額になるなど不利益に変更される場合には、「高度の必要
性に基づいた合理的な内容のもの」であるか慎重な検討が必要です。