過労死は会社の責任?

 24歳の若者が急死した。入社してわずか4カ月。
倒れる前、1カ月100時間を超える時間外労働が続いていた。
企業トップに責任がある、と7800万円の賠償命令が先日(5月25日)言い渡された。

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■ 事件のあらまし

平成19年(2007年)4月、Mさんは大学を卒業し、「日本海庄や」に入社。石山駅店(大津市)に配属されたが、同年8月11日未明、就寝中に急性心不全で死亡した。
死亡まで約4カ月間の時間外労働は、月平均して約100時間であった。
事案は労災認定されたが、両親は「過重な労働を強いた企業には安全配慮義務違反がある」として、同店を経営する「大庄」(東京)と同社の社長ら役員4人に約1億円の損害賠償を求めていた。
平成22年5月25日、京都地裁は会社の労務管理は「労働時間について配慮していたものとは全く認められない」と原告側の主張を認め、約7800万円の支払を命じた。

■ 大庄の給与体系

過労死の裁判では未払いの残業代がよく問題となるがこの事案では、賃金未払いは起きていない。それは、「基本給に残業代を含む」給与体系になっていたからである。
大庄では、Mさんら一般職から管理職の店長・料理長まで社員を8区分し、等級や「最低支給額」、手当や賞与の有無などを定め、表にしていた。
等級表の最上位は店長・料理長(管理職)の月額31万5千円以上。一番低いのは一般職で月額19万4500円。けれどもこれには一行、次の但し書きがあった。
「時間外労働が80時間に満たない場合、不足分を控除するため、本来の最低支給額は12万3200円」

■ 大卒Mさんに会社が約束した給与は時給712円だった!

給与体系を検証してみよう。
1年変形の労働時間を採用して、週40時間ピッタリの法定労働時間とした場合、1カ月平均の所定労働時間は173時間である。
12万3200円を173時間で割ると「本来の」時給は712円となる。
残業の単価は2割5分増しで890円。80時間残業すれば71,200円となる。
会社が定める本来の最低支給額12万3200円と残業代7万1200円で、確かに19万4400円である。

■ 基本給に残業代を含むことは違法ではないが・・・

【基本給は残業代込み】
違和感を覚えるが、社内の約束事で『基本給』をどのように定義しようと会社の自由ではある。さらにこの表は、「残業代が含まれる」ではなく、80時間と明記し、残業代の部分をそうでない部分と明確に区分しているので、残業代があいまいだという指摘も当たらない。
とはいえ残業は、事業場ごとに協定を結び届出をして初めて認められるものだ。適法な36協定がなければ、一般職の最低支給額19万4500円のうち71,200円は違法残業分だということになってしまう。

■ 過労死を引き起こした条件付賃金

残業時間の限度は1カ月45時間(1年変形労働の場合は42時間)、1年間の上限は360時間(1年変形労働の場合は320時間)と告示されている。
Mさんの場合、残業をしなければその月の給料は12万円、時給換算すれば712円。Mさんが働いていた滋賀県の最低賃金をわずかに上回る賃金である。
厚生労働省は2カ月以上にわたって月80時間以上の残業があれば、「過労死」としている。
先に紹介したとおり、この事案も裁判に先立って労災認定されている。

■ 給与が残業込みであるという説明はなかった

会社側は、「月額19万4500円は80時間残業した場合の給与を一つのモデルとしているに過ぎず、長時間労働を強いているわけではない」「サービス業である以上、残業が必要な場合もある。給与体系は採用時の会社説明会などで詳細に伝えている」と説明している。
けれども、「事前に(給与体系の)説明を受けていれば、入社せず、過労死することもなかった」と両親。Mさんは、給与が残業 80時間込みの月給であることを入社3週間後の新人研修で初めて知らされたらしい。

■ 裁判所の判断

裁判は、時間外労働が月80時間に満たない場合は基本給から不足分を控除するとの会社規定は長時間労働を前提としていると指摘し、「こうした勤務体制を維持したことは、役員にも重大な過失が」あり、「会社役員らは従業員の生命、健康を損なわないような体制をつくる義務を怠り、悪意または重大な過失が」あったと判示し、労働と死亡との因果関係については、「立ち仕事で肉体的負担も大きく、(死因となった)心疾患は業務に起因する」と結論付けた。

■ 事件から学ぶこと

給料がいくらなのか、残業はあるのかなど重要な労働条件は、入社に先立って、口約束ではなく、書面で明示しなければならない。
残業については、「どのようなときに、どのくらいの残業があるのか」を説明することが今後一層求められてくるのではないだろうか。
「基本給に残業を含む」はやはりおかしい。基本給とは別に、例えば職務手当(=○時間までの残業代)とするのだったら、その手当は協定で定めた時間に相応した残業代であることも確認すべきである。

例えば、1年単位の変形労働時間制を採用している事業場で、基本給が17万3000円だったとすると、残業1時間の賃金は1250円。時間外労働の上限は年間320時間。これを12で割ると26.6時間である。
1,250×26=32,500であるから-

基本給 17万3000円(所定労働時間分)
職務(=残業)手当 3万2500円(26時間分の残業代。残業の有無にかかわらず、定額支給する)    合計205,500円
労使協定により1カ月の時間外労働の上限は、42時間。
急な受注やクレームが発生したときは、月42時間まで時間外労働をしていただく。
26時間以上の残業については、実労働時間に応じ、別途時間外労働手当を支払う。

■ 命は戻らない

Mさんは自宅で就寝中に亡くなっているのを母親が発見したという。
残業が多かったとしても、体力ある若者が、まさかわずか入社4カ月で。 「お金なんかいらんから子どもを返してほしい」父親(61)の無念の言葉である。

【大庄】 1971年設立。資本金は約86億円で、「庄や」「やるき茶屋」などの飲食店を全国に約980店舗展開する。東証1部上場。
※ 事件についてはインターネットの記事による。

 その他の記事(中身はPDFでご覧くだい)

◎トピックス
 労災補償に男女差は『違憲』    5月27日 京都地裁判決
◎シリーズ年金 ・・・~ オレンジの封筒にご注意! ~

◎人事労務の素朴な疑問・・・ 産前産後は必ず休ませなければならない?

 業務日誌 5月28日より

社労士会 労働紛争解決センター新潟 が開設されました

 労働関係の紛争を 裁判や行政機関ではなく、民間の組織で解決しよう!と新潟県社労士会が労働紛争解決センターを開設しました。今年2月には法務大臣の認証を受け、さらに3月には厚生労働大臣の指定を受け、紛争解決の正式な機関として認められ、開設記念式典がありました。
労働条件や解雇トラブルなどのお困りごとを、特定社会保険労務士と弁護士が間に入って解決します。費用は5,250円です。開設式で弁護士の方が、「弁護士会と社労士会、共存共栄でいきましょう。弁護士会の貧困ネットでは、年金の問題もあり、そのときは社労士会の協力をお願いしたい」との挨拶もありました。発足したばかりですが、大きく発展することを会員の1人として期待しています。
また、この1月から「街角の年金相談センター新潟」も開設されています。このセンターも社労士が相談員として全面的に関わっています。
【労働紛争解決センター新潟】【街角の年金相談センター新潟】 どちらも市民の皆様から信頼される相談窓口になってほしいものです。お気軽にご利用ください!