監督官がきたら・・・

 「監督署が来るという手紙が届いた・・・」
不安そうな声の電話があり、聞くと「労働条件の調査指導の実施について」という手紙が労働基準監督署からきたということでした。
「心配することはありませんよ。監督署の調査というのは・・・」とかいつまんで説明し、電話を切りました。
調査を受けるというのはどんな調査でも気持ちのいいものではありません。まして労働基準監督署という名前のお役所の調査はできれば受けたくないというのが本音でしょう。
監督署の調査とはどんなものなのでしょう、どんなことに気をつければいいのでしょう。

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■ 重要ポイント

監督署の調査にも毅然としていられるよう、監督官の権限を知り、対策をとっておきましょう。

■ 提出を求められる書類

監督署の調査で提出を求められる書類は、以下のようなものです。

    • 出勤簿やタイムカードなど(労働時間の記録簿)
    • 賃金台帳
    • 労働者名簿
    • 雇い入れ通知書
    • 就業規則
    • 時間外・休日労働に関する協定届(36協定)
    • 変形労働時間制に関する協定届
    • 健康診断結果記録
    • 安全衛生委員会議事録

 

■ 調査するのは監督官

調査は労働基準監督官が行います。 労働基準法や労働安全衛生法が守られているかどうかを調べ、改善の指導のためだといって書類の提出を求められたり、また、来署を求められたりすることがありますが、これらは監督官の職務です。
法違反の疑いが濃い場合、監督官は、いきなり事業所にやってきて帳簿の提出を求め、是正を指導することもあります。

■ 労働基準法と監督官

労働基準法は労働条件の最低の基準を定めた法律です。また、労働安全衛生法は遵守しないと命の危険もありうる法律です。
使用者が遵守しなければならないこれらの法律には罰則があって、法違反を抑止しています。
スピード違反なら罰金ですが、労基法違反も罰則があるのです。
スピード違反は警察官が取り締まりますが、労基法違反は労働基準監督官が取り締まります。

■ 監督官の権限

労働基準監督官の権限については労働基準法に書かれています。

    • 臨検の権限:法違反を発見し又は是正させるため、事業所等に立ち入り調査をすることができます。
    • 提出要求権:帳簿・書類等の物的証拠を提出するように求める権限があります。
    • 尋問権:使用者又は労働者に証言を求めることができます。
    • 検査権限等:安衛法に基づく作業場環境測定等の検査をする権限や安衛法違反の即時処分権があります。
    • 司法警察官の権限:労基法、安衛法及び最低賃金法に違反した場合について、刑事訴訟法に基づき、調書を作成して検察庁に送付することができます。

 

■ 未払い残業の訴えがあると監督署は

「残業代をもらっていないので何とかしてほしい」と従業員や家族が監督署に駆け込むケースが増えています。
「労働者は、労基法、安全衛生法、および最低賃金法に違反している事実を、監督官に対して申告することができる」と労基法に明文化されています。
何の証拠もない、単なる愚痴のような訴えであれば、監督署が動くことはまずありませんが、タイムカードと賃金台帳のコピーという証拠を数ヶ月提示して、「未払残業代の実態です」と示されれば、法違反の疑いが濃いとされ、調査に入ることになるでしょう。
監督署の調査は、訴えた一人の労働者についての違反事実の調査ではなく、事業所全体の調査に及ぶことになります。

■ 監督署に寄せられる申告の内容とは

年間4万件以上の労働者からの申告がありますが、賃金不払いが7割以上と圧倒的に多くなっています。
平成20年4月から21年3月までの1年間に、全国の労働基準監督署が割増賃金の支払について是正をした事案のうち、1企業あたり100万円以上の割増賃金が支払われた事案の状況は次のとおりです。

    • 是正企業数:1,553企業 (前年度比175企業減)
    • 是正金額:196億1,351万円(前年度比76億円減)
    • 対象労働者数:180,730人(前年度比1,187人増)

 

監督署の調査で未払い賃金が指摘されると、労働者一人当たり平均11万円の支払がなされたという結果になっています。

■ 未払い残業問題防止のため・・・

未払い残業代でトラブルにならないためには、社内ルールを明確にしておきましょう。
残業は申告制にして、上司が許可をした場合に認めることとすべきです。残業をした従業員はその報告をし、上司の確認を受けます。申告残業時間を上回った場合には上回った時間に残業代を支払いますが、なぜ申告時間内に終わらなかったのか、反省を求めるようにします。賃金締め日までの1ヶ月を集計し、残業時間の合計数値に間違いがないとそのつど本人から確認のサインをとっておけば、監督署に駆け込まれることもないでしょう。

■ 監督官に未払い賃金を2年払えという権限はない

賃金の時効は2年です。だからといって監督官に「2年に遡って未払いの賃金を払ってください」という権限はありません。
「是正勧告は、法違反の状態に対する行政指導上の措置にとどまるもので、何らの法的効果をも生ずるものではない。勧告を受けた使用者が自主的に勧告に従った是正をするのを期待するものに過ぎない」
(札幌東労働基準監督署事件 平2.11.6)
「既に発生した法違反にかかる労働者の不払い賃金等の金銭債権の確保については、本来、監督機関の権限に属する事項ではなく、労使間の自発的な協議等民事的な手段により解決されるべきものである。遡及是正の勧告の対象とする事案は、賃金不払い事件として立件するに足りる客観的な確証が得られたものに限るべきであり、支払に係る労働日数、労働時間数、金額等を特定し得ないものについては、これを行うべきではない」
(昭和57年2月16日労働基準局長が都道府県労働局長に出した内部通達)
是正勧告は真摯に受け止めるべきですが、行政指導です。対策をとっておけば、行き過ぎた是正指導には毅然とした態度をとることができるでしょう。

 その他の記事(中身はPDFでご覧くだい)

 

◎ ト ピ ッ ク ス

精神障害等に係る労災請求が2割超の増加 6月16日 厚生労働省発表
うつ病などの精神障害になったのは、仕事のストレスが原因だとして労災請求した人の数が前年比2割超と増加した。
事由として、「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」、「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」、「事故や災害を体験した」など。嫌がらせ、いじめ、上司とのトラブルなど、対人関係のトラブルでの労災認定件数も少なくない。(厚生労働省のホームページで確認できます)

◎ シリーズ  年   金

 ~ 基礎年金番号 ~

◎ 人事労務の素朴な疑問

懲罰規定って何?  日本相撲協会では・・・
多くの企業では・・・「番付降下」はありませんが降格(資格等級等の引き下げ)はあります。
減給については、法律の規制があります。

◆角田識之先生 講演会IN新潟◆  業務日誌 6月17日

 「帰宅して講演の内容を思い出す限り妻に話しました。話さずにいらせませんでした!」
「本気のスイッチ、とても勉強になりました。私も人生の経営者として自分の人生を後悔しないようにしたいと思います」
数々の企業の経営を立て直した実績のある経営コンサルタント、角田識之氏が、「覚悟」という著書を出版された。新潟で出版記念講演会を行うことになり、小野本事務所が開催のお手伝いをさせていただいた。
ご自身が高校生のとき、映画に目覚め、「高校3年間で映画1000本を見る」と決めて、組織を作り、タダで映画を鑑賞した話、入社を断られた会社に覚悟を決めて本気で交渉し、担当者の心を動かして入社した話など、映像も交えた心に響く内容の講演会だった。 懇親会にも多くの方にご参加いただき盛会だった。先生、参加の皆様、ありがとうございました。