請負か雇用か・・・

デザイナーを雇おうと思うんだけれど、上手い雇い方はない?
専門職なんだから請負で仕事を頼むこともできるかなあ・・・

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■ 重要ポイント

専門職といわれる仕事を頼むにも、請負と雇用があります。
違いをふまえた契約をすることが大切です。

■ 仕事を請け負うとは?

請負の仕事の報酬は仕事が終わったとき、完成した仕事に対して支払われます。
外壁の塗装を注文することをお考えください。お願いする外壁を見てもらい、この壁面
なら、いくらでと契約し、仕事が終わったらお金を払います。
それに対して雇用契約は、一定の時期、労務に服することを約束する契約です。うちの会社で塗装工として働いてくれませんか、1カ月○万円でどうですか、という契約です。
雇用契約を結んだ塗装工は、会社の指揮命令を受けて、時間に縛られて仕事をします。
雇用契約は使用者と労働者(=勤め人、サラリーマン)が結ぶ契約です。

■ 労働者かどうかの主な判断基準は?

同じように専門的な技能を持つ人でも、請負で仕事をしている人と、会社の労働者として仕事をしている人がいます。
労働者かどうかの判断基準は以下のとおりです。

違いその1 仕事を拒めるか
請負の人なら、仕事を頼まれたとき、もうけのない仕事であれば請け負わないことができます。労働者はイヤな仕事でもハイといわざるを得ないでしょう。

違いその2 指揮命令を受けるか
請負の人は自分の判断で仕事をします。どのメーカーの塗料が良いか自分なりに考えて材料を決め、自分の責任で仕事をするのが請負です。労働者は会社が決めた材料、会社が決めた方法で仕事をします。

違いその3 拘束されるか
請負の人なら効率よく仕事を済ませようと自分なりに段どるでしょうけれど、労働者は会社の決めた始業時刻から終業時刻まで働き、仕事が終われば業務を報告しなければならないでしょう。

違いその4 報酬の性質はどうか
請負ならば、かかった時間とは関係なく、仕事の完成に対して報酬が支払われますが、労働者はどのくらいの時間働いたかを基準に報酬が支払われます。
残業があれば残業代ももらえるのが労働者です。

■ 労働者かどうか、そのほかの判断要素

・ 機械、器具の負担は
請負の人は自分の工具を使い、自分で材料を買って作業をします。労働者は会社の工具、会社が仕入れた材料を使います。
・ 専属制や報酬の額は
請負の人であっても、特定の会社の仕事だけをしていたり、報酬に固定給部分があるなど生活保障的要素が強いと、請負かどうかあいまいさが出てくることになります。

■ 税金の支払いはどうか

請負であれば事業主として売上、経費を計算し、申告納税します。
労働者は給与所得として源泉徴収され、社会保険料を給与天引きで負担します。

■ 労働者とは

「労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事業所に使用される者で、賃金を支払われる者」と労働基準法は定義しています。
労働者であれば、労働者として、保護されます。

■ 労働者かどうか、労災のときに問題が起きる

請負であれ労働者であれ、契約どおりに業務がなされ、報酬が支払われていれば、問題はおきません。
問題となるのは、業務中に事故が起きてしまったときです。
大きな事故が起きて仕事ができなくなってしまったとき、労働者であれば労災保険の給付を受けることができます。治療費の本人負担はなく、休業のときや障害になってしまったときには労災保険から手厚い給付が受けられます。

■ トラック運転手の事故で労災にならなかった事件

業務で使うトラックを自分で所有して、運送業務に当たっていた運転手が、倉庫でケガをし、労災か最高裁で争われた結果、労災にならないという判決でした。
「トラック運転手は、自己の危険と計算の上に運送業務に従事していたものである。会社は運送物品、運送先及び納入時期の指示をしていた以外には指揮監督をしていなかった。時間的、場所的な拘束の程度も一般の従業員と比べ緩やかだった。報酬の支払いも源泉徴収されず、事業所得として確定申告していた。
専属的な運送業務に携わっていたとしても、労働基準法上の労働者ということはできず、労働者災害補償保険上の労働者に該当しない。」横浜南労基署長(旭紙業)事件 (最高裁平成8.11.28)

■ 請負契約すると

デザイナーという専門的知識を持った人に、納期と報酬を定めた請負で仕事を注文したとします。デザイナーは、いつどの様な時間帯にどこで仕事をしようと基本的には自由です。デザイナーは報酬を、約束のデザインが完成したときに、契約上の期日に支払ってもらうことになります。

■ 雇用契約をすると

雇用契約ですと雇用期間を決め、賃金を決めます。通常は社会保険に入り、税金は源泉徴収します。時間外労働があれば会社は割増賃金を支払わなければなりません。また、社会保険の支払い義務が生じます。契約期間の途中解消は難しいというリスクもあります。

■ メリット・デメリットを考慮して

雇用契約では専門性の高い人のモチベーションを維持できないという声をお聞きすることがあります。確かに雇用契約は労働時間に対して賃金を払うしくみで、デザイナーのような業務に労働時間を基準にすることはなじまないかもしれません。
しかし今の時代、専門的な能力があっても、自己の危険と計算の上に、専属の会社に身を置かず食べていくことは難しくなってもいます。労災の事故があってから困ったことにならないよう、考えた上で契約をしたいものです。

 その他の記事

◎ ト ピ ッ ク ス

大企業97%が女性活用重視だが、女性課長は5.4% 8月30日 新潟日報他
共同通信社が主要企業110社への「女性の雇用」に関するアンケートをまとめた。
97%が「女性の積極活用は重要」としたが、管理職への登用は遅れており、最も多い課長級でも、5%程度にとどまることが明らかになった。
雇用差別をなくす男女雇用機会均等法の成立から今年で25年。本来なら均等法以降の世代が管理職年齢に達しているはずだが、女性活用はまだまだ。
増やす障害として多く挙がった(複数回答)のは、女性総合職の少なさ、前例がないため若手の目標になるモデルがいない、家庭との両立(育児・介護・転勤)だった。

=均等法から25年もたち、育児介護休業法もあるのに、大企業でもこの数字とは・・・

◎ シリーズ  年   金

~ 保険料の『追納』 ~
国民年金には免除や猶予の制度があります。
免除や猶予の期間は「受給資格期間」には入りますが、基礎年金は少なくなってしまいます。
そこで、生活にゆとりができたときは10年前まで遡って納めることができます。
これを「追納」といいます。
3年目以前の期間を追納するときは、当時の保険料に加算額が付きます。

◎ 人事労務の素朴な疑問

労働基準法違反の契約
労働基準法に定める基準に満たない労働条件は無効であり、無効となった部分は同法に定める基準が適用されます。(労基法13条)
たとえば「時間外労働に対する割増賃金は支払わない」と規定しても無効となります。
時間外労働に対しては労基法第37条に基づき、「2割5分以上の割増賃金を支払う」となります。

◎ 業務日誌

7月○日 事務所主催セミナー『パート・契約社員の雇い方』 「身近な問題なので、具体的な説明もあり、とてもわかりやすいセミナーでした。」
「資料や説明にとても準備されたかと思います。実際に知りたい具体例などもまじえ、とても勉強になりました。」
「先生のカラーがよく出ている聞きやすいセミナーでした。会社にとっても働くほうにとっても重要なことを勉強させていただきました。誰一人居眠りしていないセミナーって久しぶりでした(笑)」 (以上セミナー後のアンケートより)
テーマのせいか、女性の参加者の多いセミナーでした。「退職金は非課税という言い方は正確ではない」などのご指摘をセミナー後にいただきました。確かにそうでした。
暑い暑い月末の午後、参加の皆様には大変熱心に聞いていただきました。感謝です。