派遣を考える

 「今後、長く雇用し続ける見通しが立たないので、派遣スタッフを雇っている」
そういう会社は多いですが・・・

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■ 重要ポイント

派遣労働者を受け入れているなら、残業を命じるとき、労災の休業のときには注意することがあります。

■ 派遣の実情

派遣労働者は減ったと報道されています。
平成21年度の労働者派遣事業報告の集計(平成22年10月6日厚生労働省発表)によると、派遣労働者の数は前年度比で24.3%減の約302万人、派遣事業の売上高は総額6兆3千億円で前年比19%減と伝えられています。
平成20年度まで同集計は増え続けていました。昨年度、労働者派遣市場が拡大から縮小へ転換したことが集計から見て取れます。

■ 人材派遣はもともと禁止されていた

派遣で働くことは珍しいことではなくなっていますが、派遣は昭和61年に派遣法ができてから可能になったことです。

それまで、派遣は禁止されていました。
労働者の弱い立場を利用して仕事のあっせんをし、賃金の一部をピンはねすることは労働者供給にあたることとして、固く禁止されていました(労働者供給事業の禁止=職業安定法第44条)。
労働者を供給する側も、供給された労働者を使用する側もともに処罰されるというものでした。
労働基準法第6条も「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」と中間搾取の排除を規定しています。

■ 法律でいう派遣とは

労働者供給事業とは区別して、法律が例外的に認めているのが派遣です。
企業としては専門的な業務に対応できる人材がほしい、労働者としては専門知識を生かして働きたい、そんな双方のニーズを充たそうとできたのが派遣法です。
一般的な雇用契約では、雇用主が雇用する労働者に自ら指揮命令して働かせます。
派遣では、派遣労働者を雇用した会社(派遣元)が、他社(派遣先)に労働者を派遣してその指揮命令で働かせます。
「自己の雇用する労働者を、自己との雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用されることを約してするものを含まない。(派遣法第2条1号)」
本来派遣は、きちんとルールを守らなければやってはいけないものなのです。

■ 派遣法の歴史

昭和61年7月に派遣法ができたとき、派遣が認められた業務は限られていました。
はじめはソフトウェア開発といった専門業務や建築物の清掃などの13業務でしたが、同年10月には16業務、平成8年12月には26業務まで対象業務が拡大されました。
平成11年12月には港湾業務や建設など禁止される業務が限定的に列挙され、それ以外の業務では派遣を行うことができるようになりました。
平成16年3月改正では26業務以外の一般業務について3年までの派遣受入が可能となりました。製造業務の派遣も1年を限度として解禁となり、さらに平成19年3月には製造業務の派遣も3年の受け入れが可能となりました。

■ 派遣期間のルール

派遣法は派遣期間が長くなることを禁止しています。原則は1年です。
派遣先において過半数労働組合などの意見聴取という手続きを経れば、最長3年までの受け入れが可能です。
専門的26業務には派遣期間の制限がありません。プロジェクト業務、就業日数が少ない業務も期間制限がありません。育児・介護の代替業務はその休業者の復職までが期間の限度です。

■ 派遣元の責任、派遣先の責任

派遣労働者は派遣元と雇用契約を結び、派遣元の就業規則に則り派遣先で就業することになります。
ただし、労働時間、休憩、休日などの労働者の具体的就業に関連する事項については派遣先が責任を負います。

■ 派遣先が時間外労働を命じるとき

派遣労働者に時間外労働・休日労働を命じるときには気をつけなければなりません。
派遣先は派遣労働者に指揮命令して業務に従事してもらうのですから、時間外労働命令も派遣先が派遣労働者に対して行うことができます。
ただし、36協定の締結は、派遣労働者と雇用契約を結んでいる派遣元が使用者として締結していなければなりません。
派遣労働者に時間外労働を命じるには、派遣元の36協定の内容・労働時間数を確認して行わなければならないのです。でないと、労働時間及び休日に関しては派遣先が労基法の適用を受けるので、もし36協定がないにもかかわらず、あるいは協定で定められた時間の上限を超えて派遣労働者に時間外労働を行わせた場合は、派遣先が罰せられることになります。

■ 派遣労働者がケガをしたときは

災害補償については雇用関係にある派遣元に責任があるとされています。派遣労働者の労災保険の適用についても、派遣元の保険が適用されます。労災の手続き関係も派遣元で行います。
労働者が労働災害等により死亡又は休業したとき、事業主は「労働者死傷病報告書」を労働基準監督署に提出しなければなりません。
「労働者死傷病報告書」は派遣先、派遣元がそれぞれの事業所を管轄する労働基準監督署に提出しなければならないことになっています。

■ 派遣就業中のトラブル処理

派遣労働者は、業務内容が異なるとか派遣期間中の途中解除あるいはセクハラなどの問題を抱えやすい働き方であると指摘されています。
派遣法では派遣元と派遣先が連携して苦情処理に当たることが求められています。
苦情処理の実施責任者を明確にするため、派遣元責任者および派遣先責任者の選任が義務付けられています。派遣先は派遣労働者から派遣就業に関して苦情を申出られたときは、苦情の内容を派遣元に通知するとともに、派遣元との密接な連携のもとに、誠意をもって、遅滞なく、適切かつ迅速な処理を図らなければなりません。

■ 派遣のこれから

派遣先の労働者と間違うような長い期間働いている派遣労働者がいることもあるようです。
派遣労働者の実態は、専門業務に限定して認められた法制定時とは大きく外れている側面があります。
また、派遣元と派遣先の法的責任を区分することにも割り切れないものを感じます。
議論されている改正派遣法ですが、その行方を注視していきたいと思います。

 

 その他の記事

◎ ト ピ ッ ク ス

賃金の改定額3,672円に 平成22年賃金引上げ等の実態に関する調査
平成22年中に1人平均賃金を引き上げた、または引き上げる予定の企業は74.1%(前年 61.7%)で、前年比12.4ポイント上昇した。
平成22年の1人平均賃金の改定額は3,672円(前年3,083円)、改定率は1.3%(同1.1%)となり、いずれも前年に比べ上昇した。
賃上げを行った会社が若干増えたことがわかるが、20年の4,417円(1.7%)と比べると開きがあり、厳しい状況は続いているといえそうだ。
《常用労働者100人以上(「製造業」および「卸売業,小売業」については30人以上)を雇用する企業から3,493企業を抽出して調査を行い、1,995企業から有効回答を得た。このうち常用労働者100人以上の1,818企業について集計したもの》

◎ シリーズ  年   金

~ 年金額が下がる! ~
来年度の年金額が下がることが決定しました。
年金額は前年の物価変動に応じ毎年度改定される仕組みです。改定の基準となる05年を下回るのが確実で、ルールどおりの減額となる見通しです。
対象者は国民年金や厚生年金、共済年金をもらっている人。
国民年金で満額(月額66,008円)もらっている人なら、月額200円程度、年額2,400円程度減る。適用は2011年4・5月分の6月支給分から。

◎ 人事労務の素朴な疑問

退 職 金
労働契約の終了時に、使用者から労働者に支払われる賃金を退職金といいます。
本来は企業からの恩恵的給付である退職金ですが、退職金規程や労使慣行がある場合は労働基準法第11条の賃金(労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのもの)となります。
賃金ですから直接払い、全額払いの原則の適用があります。

◎ 業務日誌から

『上手に採用面接したい』 アドバイスがうまくいきました!
「現場のきつい業務のせいか なかなか思うような人を採用できない・・・」
若い社長さんが頭を抱えていらっしゃる様子でしたので、面接ヒアリングシート、面接チェックリスト、自己チェックリストを渡して、面接方法をアドバイスしました。
「おかげさまでうまく面接でき、しっかりした人を採用できました。もっと早くアドバイスを受けていれば、以前の失敗は無かったのではないかと悔やまれますが、本当に助かりました!」
面接でどのような人材か見極めるのは容易なことではありません。けれども、履歴書や職務経歴書に基づいてうまく質問すれば、どのような人物か知ることはできます。給与のほか労働時間や休日、残業時間についても、きちんと確認することは重要です。「大切にしていることは何ですか?」「趣味はスポーツとありますが具体的には?」といった質問も時には有効でしょう。素直に実践していただいて、こちらも嬉しい限りです。
今年も様々な出会いがあり、皆様に支えられての1年でした。どうもありがとうございました!