大震災は雇用にもさまざまな影響を及ぼしています。
厚生労働省から計画停電と賃金の払い方などのQ&Aが出ています(厚生労働省のHPから見ることができます)。また、地震と労災についてのQ&Aも出ています。それらを参考にしながら、計画停電に絡む労働関係の取り扱いや助成金について考えてみます。
重要ポイント
労働基準法は労働者の生活を保障するということから使用者に休業手当の支払を求めています。
計画停電のため休業した場合は「使用者の責に帰すべき事由による休業」には当たらないので休業手当を支払わなくとも労基法違反にはなりません。
休業手当とは
労働基準法第26条は「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合には、休業期間中、労働者に平均賃金の60%以上の手当を支払うこと」を使用者に義務付けています。
休業とは
休業手当が支給される場合の休業日には休日や休暇の日は入りません。勤務を予定していた日が対象です。
また、休業は1日の休業である必要はありません。半日の休業など1労働日の一部を休業した場合も含まれます。
一部休業の場合で、労働した時間について賃金が支払われていても、平均賃金の60%に達していなければ、差額を支給しなければなりません。
平均賃金とは
平均賃金とは「これを算定すべき事由の発生した日以前3か月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」(労働基準法第12条1項)をいいます。
月末締めでたとえば3月18日に「使用者の責に帰すべき事由による休業」で休業させたとしましょう。
月給30万円なら3月18日より前3か月間の賃金の総額は90万円で、総日数は12月1日から2月28日までの90日(31+31+28)ですから、平均賃金は1万円になります。
この場合、毎月の出勤日数が20日とすると、1日あたりの賃金は15,000円になりますが、平均賃金とは一致せず、平均賃金の方が低額になります。
計画停電と休業
今回の計画停電については、昭和26年10月に出された通達「電力不足に伴う労働基準法の運用について」のように取り扱うよう厚生労働省は通知しました。
電力事情の悪化が、全国的問題となり各方面に深刻な影響を与えつつあったという背景で出された60 年前の通達が引っ張り出されたのです。
計画停電時間帯以外の休業について、休業手当の支払が必要なことは言うまでもありません。
計画停電の時間帯を含めて1日全部を休業する場合については、「計画停電の時間帯のみを休業とすることが企業の経営上著しく不適当」である場合には、休業手当を支払わなくとも法違反とはなりません。
計画停電があっても、必ずしも作業を休止する必要のないような作業部門例えば作業現場と直接関係のない事務労働部門についてまで作業を休止する場合は休業手当が必要です。現場が休業することによって、事務労働部門の労働者だけを就業させることが企業の経営上著しく不適当と認められるような場合に事務労働部門についても休業した場合であれば、休業手当を支払わなくても法第26条違反とはなりません。
停電のため自転車通勤にしたが・・・
節電のため、電車の運行本数が少なくなっています。いつもは電車通勤だけれど、自転車通勤にしたという場合、自転車での通勤途上にケガをすると、通勤災害になるのでしょうか。
自転車通勤を会社に届け出ていなかったり、承認を受けていなかったりした場合でも、合理的な経路・方法の通勤であれば、労災の補償を受けることができます。
電車が止まっていて4時間歩いて帰宅したという場合も、合理的な経路・方法の通勤なので、ケガをした場合は補償を受けることができます。
最近は自転車による事故が増えているようです。
従業員が自転車通勤の途中で接触事故を起こし相手共にケガをしてしまった場合、通勤災害なのですから補償を受けるための申請に会社は協力する必要があります。が、会社は、事故の相手方に損害賠償の責任を負いません。従業員についても損害賠償責任は負いません。
交通事故が業務中であれば、会社は事故の相手方に損害賠償等の責任を負う可能性があります。通勤は労災保険が適用されますが、業務ではありません。
労災保険法は、「業務災害」および「通勤災害」に関する保険給付を行うものですが、通勤は業務の準備行為であって業務とは区別されます。
停電のためにホテルに宿泊、そこから出 勤したが・・・
通常はアパートや自宅などの住居と会社の往復が「通勤」ですが、ホテルから会社に行くことは通勤になるのでしょうか。
通勤とは、「労働者が、就業に関し、住居と就業の場所との間の往復等の移動を、合理的な経路及び方法により行うこと」です。
この場合、ホテルが「住居」になりますから、ホテルから会社に向かうことが通勤となり、その途中でケガをすれば通勤災害として補償を受けることができます。
今日はホテルが住居だと、経路を外れたところで長時間ショッピングをしたり、居酒屋に立ち寄ったりすると、それ以降は通勤とは認められません。
震災のため、避難所や家族がいる病院が「住居」になるということも考えられますが、同様の取り扱いになります。
停電と雇用調整助成金
雇用調整助成金は、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者の雇用を維持するために、休業等を実施し、休業に係る手当等を労働者に支払った場合、それに相当する額の一部を助成する制度です。
具体的には、「最近3か月の生産量、売上高等がその直前の3か月又は前年同期と比べ5%以上減少している雇用保険適用事業所の事業主」が対象となります。
なお、中小企業緊急雇用安定助成金は、中小企業向けに雇用調整助成金の助成内容を拡充したもので、直近の決算等が赤字の場合、生産量等の減少が5%未満であっても対象となります。
計画停電により事業活動が縮小し、休業に係る手当等が支払われ、5%減少の要件を満たした場合は対象となります。
その他の記事
ト ピ ッ ク ス
【賃金構造基本統計調査結果】 ~東京と新潟を比較してみると・・・
年齢 | 勤続年数 | 決まって支給する 給与(残業込み) |
所定内給与 | 年間賞与 その他特別給与 |
|
---|---|---|---|---|---|
東京男女平均 | 40.5 | 11.5 | 391.1 | 364.8 | 1043.8 |
新潟男女平均 | 41.9 | 13.0 | 283.4 | 261.7 | 623.1 |
新潟男性 | 42.5 | 14.1 | 317.5 | 291.8 | 714.3 |
新潟女性 | 40.8 | 11 | 221.9 | 207.2 | 458.3 |
調査の時期/対象 : 22年7月/10人以上の常用労働者を雇用する民営事業所の平成22年6月分の賃金等 (賞与等については平成21年1年間) 単位=千円 |
シリーズ 年 金
~ 在職老齢年金の停止基準の変更 ~
在職老齢年金の支給停止基準は46万円に変更
働きながら年金を受けているとき、総報酬月額相当額と老齢厚生年金の月額によって、年金額は減額されます。その基準額が平成23年4月1 日から変わります。
①60歳から64歳までの年金受給者 支給停止調整変更額47万円から46万円へ
(28万円の支給停止調整開始額については変更なし)
②65歳以上の年金受給者 支給停止基準額47万円から46万円へ
平成22年に48万円から47万円に変わったばかりで 2年続けての変更となる。
新シリーズ 人事労務の素朴な疑問
従業員代表になってくれる人がいないときは?
時間外・休日労働協定(36協定)は会社と従業員の過半数を代表する者と結びます。
「使用者は、過半数代表者である(またはなろうとした)こと、過半数代表として正当な行為をしたことを理由として不利益な取り扱いをしてはならない」 (労働基準法施行規則第6条の2)
代表選出に当たってはこのことを説明しておくのがよいでしょう。
業務日誌より~『ボランティア休暇制度を創設したい』
『震災で何かボランティア活動をしたいという従業員を会社としても支援したい。ボランティア休暇の制度の雛形はないだろうか。』
こんなご相談を受けました。
勤めたばかりの人は対象にできないだろう、勤続何年からを対象にしようか。期間は1年ごとに5日くらいはどうか。ボランティアの活動としては社会貢献活動、スポーツ振興、福祉活動、国際貢献もありだろうか・・・
法律で縛りがある事柄ではないので、社会常識を考えながら、ボランティア休暇をとりやすくするしくみをあれこれ考えるのはおもしろい業務でした。
これを機会に慶弔見舞金規程も見直そうということになりました。
家屋の被害状況をどのようにけ分けて見舞金を支給するかも厄介な問題です。持ち家か賃貸住宅か、世帯主とそうでない人を区別すべきか、金額はどれくらいがよいだろうなど、災害見舞金の規定つくりは意外と難しい作業です。