契約社員の就業規則は必要!

 「契約社員はいるが、契約社員向けの就業規則は別にない。大多数を占める正社員向けの就業規則はある。契約社員とはちゃんと雇用契約書を結んでいる。」

 このような会社は少なくないようなのですが、大変困ったことになりかねません。いったいどんなリスクがあるのでしょう。

重要ポイント

 契約社員、パートタイマー、再雇用社員など、非正規の社員がいるのであれば、各雇用形態に応じた就業規則を作成しておく必要があります。

就業規則と雇用契約書の内容が合わないとき?

 契約社員の雇用契約書には、期間を定めた契約だと明記されていて、退職金は支払わないと書かれていたとします。
 一方、「この規則は○○会社の従業員に適用する」という就業規則があって、契約社員向けの就業規則がない場合は、契約社員であっても、今ある就業規則が適用されるリスクがあります。
 雇用契約の内容と就業規則の内容に違いがあった場合、就業規則が優先的に適用されてしまいます。

60過ぎの年金受給者に退職金を支払う?

 裁判で争われた事例をご紹介します。
 大興設備開発事件、大阪高裁、平成9年10月30日の判決です。
 60歳過ぎて雇用され、年金も受給していたのに、正社員向けに作成されていた就業規則が適用され、会社は退職金を支払えと命じられました。

控訴人Xの状況

 退職金が私にももらえるのではないでしょうか、と裁判に訴えた方は、60歳を過ぎてY社に雇用された方でした。年金を受給していました。
 別の会社を退職後、昭和58年9月から65歳になるまでの昭和63年2月1日までは請負契約に基づく、請負人として勤務していました。
 65歳となった昭和63年2月に請負ではなくYの従業員となり平成7年3月までの7年少しの間、正社員より少ない労働日数で勤務しました。
 月の所定労働日数が正社員は21日か22日であるところ、18日でした。
 健康保険に加入し、妻は被扶養者と認定され、年次有給休暇も付与されました。
 賃金は日給8,600円で、昇給はありませんでした。正社員には主任手当が月額20,000円、皆勤手当7,000円が支給されていましたが、Xには主任手当が、10,000円、皆勤手当5,000円(月18日の勤務で支給された)が支給されていて、配偶者がいるのに正社員には支給される家族手当の支給を受けていませんでした。
 会社が求める資格、公害防止管理者資格を持っていました。
 平成7年3月11日から同年9月10日までは退職金がない旨の雇用契約書を締結し、9月10日まで勤務しました。

Y社の就業規則

 Y社は、電気、冷暖房、給排水、消防設備の管理及び検査等を目的とする会社で、正社員のほかに年齢が60歳を超え、年金を受給しながら働く高齢の従業員と、正社員のように恒常的な定時労働ではないパートタイムの従業員を雇用していました。
 会社が平成6年に制定し、監督署に届け出た就業規則は、規定の上で適用対象を正社員に限定しておらず、高齢者を適用対象とする就業規則は別にありませんでした。
 その就業規則の退職金規程は、「会社は、従業員が退職した時は退職金を支給する、但し、勤続3年未満の者については退職金を支給しない、退職金の計算は 基本給×勤続年数÷2 とする、退職金は退職手続き完了後1カ月以内に支給する」でした。
 会社は、Xからこの訴訟が提起された後、平成8年1月に正社員を適用対象とする就業規則と、高齢者及びパートタイムの従業員を適用対象とする就業規則と二つ制定しました。

判決

 「会社の就業規則は適用対象を正社員と高齢者に分けて規定しておらず、規定の内容も従業員全般に及ぶものとなっていたのであり、高齢者にも適用されると解するのが相当である。
 会社は高齢者やパートタイムの従業員を除く正社員に適用することを念頭に置いていたので、制定に当たり、正社員には説明会を開き、代表者の意見を聞き、できあがった規則を正社員に見せたが高齢者には示していないと主張する。しかし、就業規則には法的規範性が認められており、本来的に労働条件の画一的、統一的処理という点にその本質があり、それ故に合理性を持つものといえるから、その解釈適用に当たり就業規則の文言を超えて使用者である被控訴人の意思を過大に重視することは相当ではない。
 就業規則には高齢者に退職金を支給しないという明文の定めがなく、勤続3年未満の者には退職金を支給しないとの定め以外の適用排除規定が見当たらず、控訴人についても退職金を計算することは可能である。控訴人は、他の会社で働き60歳に達し、年金を受給できるようになってから被控訴人に採用された者であり、60歳時に被控訴人から退職金を支給された者ではない。退職金には賃金という性質があることを否定できないこと、退職後の支給であるため年金を受給しつつ労働を続けるために賃金や諸手当を低額に抑えるという要請を受けないことを併せ考えると、高齢者である控訴人について、本件就業規則の退職金の定めを適用できないと解すべき根拠はないというべきである。
 控訴人の勤続年数は、昭和63年2月2日から平成7年3月10日まで7.08年となり、退職金は547,992円となる(8,600円×18日×7.08÷2=547,992円)
 控訴人は平成7年9月10日に退職したから、退職金は就業規則によりその翌日から1カ月以内に支給されるべきであり、支給を遅滞していると認めることができる。
 退職金とこれに対する平成7年10月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。」

労働契約法のキマリ

 「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において無効となった部分は、就業規則で定める基準による。」
労働契約法12条

雇用区分に応じた就業規則が必要

 契約社員やパートタイマーがいるのであれば、「正社員就業規則は適用しない」として、就業規則を別に作成しておきましょう。
 雇用契約書で退職金なしと定めていても、適用される就業規則に退職金ありとなっていると裁判では負けてしまいます。遅延損害金まで支払わなければならなくなります。
 就業規則は労働基準法により、その事業場における労働条件の最低基準を定めることが求められていて、その基準を下回る個々の雇用契約は、就業規則の定める基準まで引き上げられてしまうのです。

そ の 他 の 記 事

 ト ピ ッ ク ス 

 軽井沢バス転落事故の運転者の健康管理  1月15日の事故
 1月15日未明、大学生のスキー客を乗せたバスが、軽井沢で転落し、死傷者が出るという大きな事故がありました。
 運転手の健康状態はどうだったのでしょうか。
 運転手は65歳、昨年末に数年勤めた会社を退社し、今の会社に1か月前に契約社員として採用されたようです。
 労働安全衛生法では、労働者を雇い入れたときには「雇い入れ時の健康診断」をすることになっています。深夜の労働に従事する人には6カ月に1回という頻度での定期健康診断も義務付けられています。
 運転業務に携わる人を採用する時には、健康状況に関して、服用している薬はないか、あれば何か、通院しているか、過去3年間の定期健康診断等で異常を指摘されたことはないか、腰痛や肩こり等で仕事に支障があったことはないかなど、申告を求め健康を確認する方法もあります。

 年金あれこれ    ~未加入期間国民年金適用勧奨~

 採用した従業員が、このような書類を持ってきました。前職の会社の退職日が10月28日で、会社には11月1日に入社しました。
 この場合10月の年金は未加入となってしまいますので、このような書類が本人の住所地あてに届きます。勤務先事業主の確認も求められます。
 本人としては1カ月の空白期間があったなんて納得しがたい制度かもしれませんが、末日まで在籍していないとこういうことが起こるのです。

 【スタッフからひとこと】
 扶養控除申告書の個人番号

 除等申告書には、個人番号を記載する必要がありますが、個人番号が記載されていると保管方法など管理が大変です。個人番号は別途提供してもらい、扶養控除等申告書の余白に「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」と記載してもらうことをお勧めします。この記載があれば、扶養控除申告書の管理が楽になります。

  【 社会保険ってなに 】社員向け研修会 1月○日業務日誌

 「社会保険には加入しているが、どんな制度なのか、きちんと従業員に説明してほしい」

 このようなご依頼を受けて、従業員の皆様に、社会保険の制度について研修会をしました。
 「給与の手取りが約16万円のとき、会社は一体いくらの給与を約束し、社会保険などの法定福利費をいくら負担しているのでしょう?」研修の中でこのような質問をしてみましたが、従業員のかたの正解はありませんでした。社会保険料は半分会社も負担していることは意外と知られていないようです。
 出産に関連して社会保険料が免除になることや、出産手当金のしくみ、雇用保険の育児休業給付金のしくみについては、まだ該当の方がいらっしゃらない会社でしたが、関心が高いと感じました。
 傷病手当金が退職後ももらえることも初めて知る方ばかりのようでした。
 保険料が高いことが負担になっている社会保険ですが、制度をきちんと理解し、必要なときには忘れずに手続きをして、給付を受けてもらいたいものです。