基本給に残業代を含む のワナ

 「管理者を雇いたい。月給は30万円で管理職手当を含むこととしたい。少々残業はあるだろうが、それもすべて込みで30万円にしたい。」

 このような労働条件の設定は問題ないのでしょうか。

重要ポイント

「基本給に残業代を含む」のであれば、残業なしの部分と残業の部分を明確に分けておかなければならない。実際の残業が長いときは、別途支払いも必要となる。

管理職を雇う ことは 残業代なし ではない

ご相談は、数人の部下を持ち、その組織の長となる人を採用したいということでした。
会社としては管理職と呼びたいのでしょうが、管理職であっても、基本的には残業代の支払いは必要です。労働者保護の法律である労働基準法の保護を必要としないような、大きな責任権限と年収があり、労働時間も自由な裁量があるような働き方の人でなければ、残業代の支払いなしというわけにはいきません。

残業が全くない管理職は考えにくい

部下を管理する立場の人が、まったく残業をしないということは考えにくいでしょう。
残業には残業代を払わなければなりません。
定額の基本給に残業代が入っていることにしたいというのであれば、所定の労働時間働いたときの賃金の部分と、時間外労働に対する残業代の部分を区別しておかなければなりません。

41万円の基本給は残業代を含むか

41万円の基本給であれば、基本給として安いとはいえないと思いますが、明確に通常賃金と残業代が区分されていないとして、41万円のほかに残業代の支払いが命じられた判決があります。(最高裁判所第一小法廷平成24年3月8日テックジャパン事件)

何時間の労働に41万円なのか

Y社は、労働者Xとの間で「月間総労働時間が180時間を超えた場合にはその超えた時間につき1時間当たり2560円を支払い、月間総労働時間が140時間未満の場合はその満たない時間につき1時間当たり2920円を基本給から減額する」という、有期の雇用契約を結んでいました。
Y社は人材派遣を業とする会社で、Xは派遣労働者として就労していました。

勤務の実態

Xは、平成17年5月から同18年10月までの各月において、いずれも法定労働時間(1週間当たり40時間を超える労働または1日当たり8時間)を超える労働をしました。
平成17年6月の月間総労働時間は180時間を超え、それ以外の各月の月間総労働時間は180時間以下でした。
Xは、Y社に対し、時間外割増賃金の支払を請求しました。

会社の主張

Y社は、月間140時間から180時間までの労働について賃金41万円を支払うとの合意をしていたのであって、月間180時間までの労働について時間外割増賃金を支払う理由はないと主張しました。
また、月の労働時間が180時間以内の場合には残業代を支払わないという契約をしている以上、180時間以内に残業代が発生したとしても、それをもらわなくてもよい、つまり、残業代をもらう権利を放棄しているといえるとも主張しました。
なお、Y社も月180時間を超える労働には時間外割増賃金の支払が必要となる点については、争っていません。

裁判所の判旨

この雇用契約一部が労基法の時間外割増賃金とされていたという事情はうかがわれない上、割増の対象となる時間外労働の時間はは、月額41万円の基本給の、月によって勤務すべき日数が異なること等により大きく変動し得ることからすれば、通常の労働時間の賃金にあたる部分と時間外割増賃金にあたる部分とを判別することはできない。
Xの自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示があったとはいえない。
Y社は月間180時間以内の労働時間中の時間外労働についても、41万円のほかに割増賃金を支払う義務を負う。41万円の一部が時間外労働に対する賃金である旨の合意がされたものということはできない。

裁判官の補足意見

裁判では主文とともに、補足意見がありました。
使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは、罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるため、時間外労働時間数及び残業手当の額が明確にされていることを法は要請している。
固定残業手当が導入されている場合は、雇用契約上も明確にされ、支給時に支給対象の時間外労働時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないし、固定の時間外労働時間を超えて残業が行われた場合には、別途上乗せして支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならない。
派遣労働者である契約社員であるXは、正規社員とは異なり、諸手当、交通費、退職金は支給されず、41万円という額が、格段に有利な給与設定とはいえない。

固定残業代のワナ

今回のケースでは、変形労働時間制を採用していませんでした。Y社の所定労働時間である月160時間で41万円を除して、時間単価を出すと、1時間2562円、残業単価は3202円になります。180時間の労働は20時間分の時間外労働となり、64,000円にもなってしまいます。
もし、残業時間が20時間で、総額41万円払うという雇用契約を結ぶのであれば、
基本給354,000円(月所定労働時間160時間)
20時間までの残業には固定残業代  56,000円   合計410,000円
としておけばよかったのです。
41万円を通常の労働時間部分と残業代の部分を分けていなかったばかりに、41万円を基礎に別途残業代を支払うことになってしまいました。

本人が同意していてもダメ

むちゃくちゃな時間の時間外労働があったわけでもなく、41万円というそれなりの金額の月給を払っていたのだから、月20時間程度の時間外労働の残業代はいらないという約束だったという会社の主張も、無理はないように思われます。
ところが、賃金という大事な労働の対価を放棄したというためには、「労働者の自由な意思に基づくものであることが明確でなければならない」のです。

固定残業代を払うなら

残業込みで30万円以内にしたいのであれば、以下のようにしてはいかがでしょう。
基本給24万円 月所定労働時間 160時間
固定残業代 30時間まで(残業単価1,875円×30)56,250円 合計296,250円
実際の残業が30時間を超えた場合は、超えた労働時間1時間につき1,875円の残業代を固定残業代のほかに支払う。

そ の 他 の 記 事

 ト ピ ッ ク ス

はじめての男性育休で60万円  厚労省 2月17日発表
男性の育児休業取得率は2.3%(平成26年度)ですが、政府は平成32年には13%にする目標を
掲げています。厚労省は「平成28年度予算案の両立支援等助成金のお知らせ」を発表しました。
出生時両立支援助成金(仮称)が新設されます。男性労働者が、育児休業を取得しやすい職場風土づくりに取り組んでいる事業主で、配偶者の出産後8週間以内に開始する育児休業を取得した男性労働者が発生した場合、事業主に助成されます。
・ 取組かつ1人目取得時 中小企業60万円、大企業30万円
・ 2人目以降取得時 15万円
※ 2週間以上(中小企業は5日以上)の育児休業が対象
※ 過去3年以内に男性の育児休業取得者が出ていない事業主が対象
※ 1企業当たり1年度につき1人まで
※ 平成32年までの時限措置  ⇒ 男性の育休は進むでしょうか

 年金あれこれ    ~28万円の標準報酬~ 

60歳代前半の在職老齢年金の金額を考えるとき、28万円が壁となります。

退職した時は健康保険の任意継続被保険者となることができますが、報酬が高い場合,28万円が上限の保険料額です。

28万円は協会けんぽの被保険者の標準報酬月額の平均額です。

 【スタッフからひとこと】
健康保険料、変更です!

3月分(4月納付分)より協会けんぽの健康保険料率が新潟県では、9.79%と9.86%から0.07%引下げられます。
介護保険料率は全国一律で、1.58% から変更は、ありません。
また、標準報酬月額の等級が3等級引き上げられ、標準賞与額も引き上げられます。

  【 個別労働紛争解決研修 】 参加しました 業務日誌 2月○日

社会保険労務士の全国組織が主催する、個別労働紛争解決研修(2日間、東京中野)に参加しました。
退職時のトラブルをはじめ、ハラスメントやメンタルヘルスなど、労使で争いになったときにどのような法に基づいて、どう考え解決していくかということを、演習形式で学ぶ研修でした。
今回は労働側、使用者側と双方の立場の弁護士の話を直接聞くことができました。均等法やパートタイム法など、表面的な解説ではなく、法律の背景や裁判になったときの法の位置づけを講義してもらうことができました。労働関係の多くの著作がある人から話を直接伺うことができ、著者が身近に感じられました。
演習は、4・5人のグループで行われました。裁判例を基に考えた、研修事例から、論点を整理します。どの事柄をどう評価して、紛争の解決を図るかグループごとに協議し、発表しあいました。
妊娠のため、軽易業務への転換を求められたので、副主任の地位を降ろしたという、実際の裁判例を基にした事例では、特に活発な議論となりました。