新潟市民病院に勤務していた30代の女性研修医の自殺について、遺族が8月17日、新潟労働基準監督署に労災申請したと報道されました。(8月18日、新潟日報)
どのようなことがあって労災申請になったのでしょう。労災になるとならないの違いは何なのでしょう。
重要ポイント
過重労働はあってはならないといわれ続けている中で、また身近で悲しい事件が起きた。過重労働による研修医自殺は労災に認定されると思われる。
事件の概要
研修医は2015年4月から卒後3年目の後期研修医として市民病院に勤務しました。
彼女の4月から12月までの時間外労働時間は多い月では250時間を超え、平均で約192時間でした。度重なる休日出勤や深夜の呼び出しで疲弊し、今年1月命を絶ったといいます。
医師は労働者か
開業医であれば労働者ではありませんが、病院に勤務する医師は労働基準法の労働者です。労働者とは労務を提供して、賃金を受ける者で、職業の種類を問いません。高度な専門的知識を持つ医師も、労働時間によって賃金という対価を受け取る労働者なのです。
労働者の時間管理
使用者は労働者の労働時間の管理をしなければなりません。法定労働時間を超えるのであれば時間外労働の協定の範囲で行わなければなりません。病院は労働時間をしっかり把握していなかったと遺族は主張しています。
法定の労働時間の倍以上の労働時間が続いていたことが「気力がない」「よく眠れず、いくら寝ても疲れる」という体調悪化、精神疾患の原因となったようです。
精神疾患が労災となるとき(認定基準)
精神障害が労災認定されるための要件は次の3つです。
(1)認定基準の精神障害を発病していること
(2)認定基準の対象となる精神障害の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
(3)業務外の心理的負荷や固体側要因により発病したとは認められないこと
上記認定要件のいずれも満たす場合は、業務上の発病として取り扱われます。
発病とは
受診歴のない場合は、監督署が家族、同僚・上司との聞き取りによって、「言動・勤務状況等の変化等」を把握し、発病の有無を判断します。
また、受診日(診断書の日付)が発病日ではありません。監督署の調査によって発病日が推定され、その発病前6か月の心理的負荷で判断が行われます。
監督署の対労働時間の把握の仕方
監督署は使用者が管理している労働時間が実態と異なると判断した場合、以下のようなことを行います。
(1)事業主としての労働時間管理方法及び当該記録内容の精査
(2)被災労働者、職場関係者の聴取における労働時間の実態の申立て内容の整理
(3)業務報告書等の記録、パソコン等の稼働時間の記録、事務室等の施錠管理簿等の記録等の有無及び当該記録内容の精査
(4)被災労働者以外の複数同僚労働者等の労働時間との比較を行うための同僚労働者の聴取
上記のことを行ったうえで、被災労働者の労働時間の推計がなされます。
長時間労働は負荷「強」
発病前の1か月におおむね160時間を超えるような、又はこれに満たない期間にこれと同程度の(例えば3週間におおむね120時間以上の)時間外労働を行った場合は、労災の認定基準上「特別な出来事」と評価され、心理的負荷の総合評価が「強」となります。
医師として経験の浅い研修医が強い使命感をもちながらも終わりのない業務の重圧を感じながら極度の長時間労働を行っていたと推察されます。
認定基準は、「特別な出来事以外」であっても、「客観的に、相当な努力があっても達成困難なノルマが課され、達成できない場合には重いペナルティがあると予告された」ような場合は「強」、また、「通常なら拒むことが明らかな注文ではあるが、重要な顧客や取引先からのものであるためこれを受け、他部門や別の取引先と困難な調整に当たった」ような例も「強」と判断されるとしています。
業務以外の発病要因はなかったか
労災の判断に当たっては、業務と全く関係のないことで心理的負荷がかかる出来事(本人が重い病気やけがをした、配偶者や子供が死亡した、天災や火災にあったなど)が発病の原因であるかどうかも調査されます。
精神障害の既往歴やアルコール依存状況などの固体側要因については、その有無と内容を確認し、発病との関係が判断されます。
業務の負荷と「自殺」
業務による心理的負荷によって精神障害を発病した人が自殺をした場合は、精神障害によって、正常な認識や行為選択能力、自殺行為を思いとどまる精神的な抑制力が著しく阻害されている状態に至ったもの(故意の欠
如)と推定され、その死亡は労災認定されます。(認定基準)
労災認定されると
労災認定されると、労災保険からの補償が受けられます。
遺族にたいしては遺族補償給付があります。妻であれば年齢制限等はなく受給権者となりますが、夫は60歳以上か一定障害でないと受給権者となれません。葬祭料の支給はあります。
労災保険には慰謝料はありません。
裁判になると
労災請求と並行して事業主の過失責任、損害賠償責任等を問う裁判が起こされることでしょう。
裁判では具体的な勤務状況、過重労働を放置していた実態がわかってくると思います。
極度の長時間労働があることを知りながら対策をとらなかった事業主の責任が問われることになることでしょう。医師不足といわれる中、医師の勤務実態がどのようなものか、注目されます。
電通事件(過労自殺の事件。平成12年3.24判決)では、常軌を逸する時間外労働の実態が明らかにされ、会社が遺族に1億6,850万円を支払い、謝罪し、和解が成立しました。
労働契約法では
平成20年施行の労働契約法は、判例を成文化し労働契約の基準を定めたものですが、第5条を確認してみましょう。
「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」
ト ピ ッ ク ス
最低賃金 過去最高の25円増 全国平均823円(新潟753円)に
平成28年度の地域別最低賃金が答申されました。
新潟県の最低賃金は731円から753円に22円も上がります。(新潟県は平成28年10月1日が発効予定年月日)最高額は東京の932円で、最低は沖縄と宮崎県の714円です。
上がり幅が過去最高ということも驚きですが、最高の東京と最低の地域の賃金が218円も差があり、率にすると沖縄は東京の76.6%となります。
この改定を前に、平成28年8月5日からキャリアアップ助成金が拡充され、処遇改善コースが活用しやすくなりました。たとえば、最低賃金額の発行日の前日までに賃金規定等の改定(作成)・及び2%以上増額をすれば、この助成金がもらえます。賃金規定の改定増額前にキャリアアップ計画書の提出も必要です。
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労務のことば ~休職の意味~
休職について労働基準法に定めはありません。
休職とは「従業員の身分を保有したまま一定期間就業義務を免除する制度」で、多くの正規従業員の就業規則には休職規定があります。解雇を猶予し、職場復帰を待つことが制度化されたのが休職制度です。
休職となり無給となれば、健康保険の傷病手当金が受給できます。
【スタッフからひとこと】 深夜作業は残業?
給与計算のため送られてきた出勤簿を見ると、午後6時まで通常勤務し6時間後の午前0時から午前3時まで勤務でこの3時間を深夜残業と記載がありました。カレンダーの日付が変わった日の作業を前日の深夜残業とし、早朝働いて帰宅した日を休日としていました。
労働基準法では休日である1日とは暦日(0:00~24:00)を基本としています。
日付が変わっているので午前0時から午前3時は早朝勤務?となり、その日はそれ以降働かないので、時間外労働にはなりません。
【 こんなときどうすれば?? 】 さまざまな質問を受けました 業務日誌 8月○日
Q「客先に直行するときにいつもより家を早く出る社員がいるが、割増賃金を支払わなければならないか?」
A 労働を命じているわけではないので、割増賃金は払わなくてよい。ただ、2時間も早く家を出ることが想定されるような場合は、何らかの手当てを支給することを検討さてどれはうか。
Q 「土曜が出勤日の社員と、土曜は休日のパートがいる。計画年休で土曜日をした年休ととき、パートの年休はどうなる?」
A 年次有給休暇は勤務日について休むことなので、もともと勤務日でない日が年休になることはない。
Q 「休職発令した者から年休を請求されたら与えなければならないのか?」
A 病気欠勤の時に年休を取得することは可能だが、休職発令された期間はその期間について労働義務を免除することなので、労働義務がない日について年次有給休暇請求権を行使することはできない(通達がある) = 即答できない質問もありますが(汗)、根拠を示してお答えするよう、努めています =