通勤災害になる

「自転車通勤の従業員が仕事帰りに通勤経路を200メートルほど外れたところにあるドラッグストアで牛乳を購入、その後店の駐車場で転んでけがをしたが・・・」
 運悪く、顔面を傷つけるケガとなり、しばらく仕事を休むことになりました。通勤災害として労災保険の給付が受けられるのでしょうか?
 通勤災害になるとならないとで、どんな違いがあるでしょうか。

重要ポイント

 もし、通勤経路を外れていなければ、牛乳を購入した店の駐車場での事故は通勤災害と認められる(可能性が高い)が、「逸脱」した店舗で起きた事故は通勤と認められない。
 「逸脱」してもその後に通常の経路に戻った後の帰宅行為は「通勤」となるので、仮にケガが自宅近くで転んだなどであれば、通勤災害として保険給付の対象となる。
 通勤災害と認められれば、私傷病のときより手厚い給付が受けられる。

通勤の定義

 「通勤とは、労働者が就業に関し、住居と就業の場所との間を、合理的な経路および方法により往復することをいい、業務の性質を有するもの除くものとする。」(労災保険法第7条2項)

経路の逸脱・中断

 冒頭のケースでは、通勤経路を外れていました。
 通勤経路からの「逸脱」とは合理的な経路から外れることをいいます。また、「中断」とは経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいいます。
 逸脱および中断の間は通勤とせず、その後の往復についても通勤としないとされています。ただし、逸脱・中断が、日常生活上必要な行為であって、やむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、逸脱・中断の間は通勤としませんが、その後の往復を通勤とすることとされています。

日常生活上必要な行為とは

 具体的な日常生活上必要な行為とされているものは以下です。
① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業訓練を受ける行為等
③ 病院又は診療所におおいて診察または治療を受けることその他これに準ずる行為
④ 要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母ならびに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母および兄弟姉妹の介護

日用品の購入その他の行為とは

 帰宅途中にスーパーマーケットに立ち寄って惣菜等を購入する場合、また、独身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ちよる場合等が日用品の購入その他の行為に該当します。
 また、帰路で書店に立ち寄ることはよくあると思いますが、「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当します。ただ、書店で過ごした時間は最小限度のものである場合が該当となります。

通勤に付随する「ささいな行為」

 帰宅途中経路のコンビニで缶コーヒーを購入、駐車上の段差で負傷した場合は通勤災害になるでしょうか。
 通勤経路上のコンビニで缶コーヒーを購入する行為は通勤に付随する「ささいな行為」とされ、逸脱・中断とはならず、通勤災害となります。通勤経路近くの公衆トイレを使用する場合、経路近くにある公園で短時間休息する場合、経路上のコンビニで雑誌等を購入する場合もささいな行為となります。

会社への届け出とは異なる経路の事故は

 会社では通勤手当の認定や通勤経路の確認のため、通勤経路の届け出を出してもらっていると思います。電車通勤の人が電車事故のための迂回経路をとった場合や、マイカー通勤者が事故による渋滞を避けるため、いつもと違った経路をとった場合の事故は、通勤災害になるのでしょうか。
 経路の届出をしているので、それを外れれば通勤とならないのではと思われるかもしれませんが、極端な迂回でなければ「合理的経路」と考えられ、認められます。
 また、健康のため1駅前で下車して徒歩通勤中のケガも、通勤災害と認められます。

子供の送迎のため迂回した場合は

 共働きの労働者が、託児所、親せき等に預けるためにとる経路などは、当然、就業のためにとらざるを得ない経路で、合理的な経路となるとされています。
 昼休みに帰宅するときに負傷した場合は自宅が近い従業員が昼休みに自宅に往復するときの事故は、通勤災害にも業務災害にもなりません。休憩時間の私的な行為の事故に労災保険は適用されません。

客先から直帰する途中の事故は

 営業職の社員は客先へ直行したり、直帰したりがよくあると思います。
 自宅から客先へ行く行為、客先から自宅に帰る行為は「就業の場所」が客先と考えられるので、通勤行為と考えられます。
 ただし、支店勤務の営業社員が、会議のために自宅から本社に向かう途中の事故は、就業の場所への異動ではなく、出張業務のための移動と考えられ、通勤災害ではなく、業務災害となります。
 出張とは、会社が一定の期間に目的地を限って決められた業務を行うことを命じている行為とされ、出張期間中の行為は原則的にすべて業務とかかわりが深い(事故が起きれば業務災害)と考えられます。

通勤の認定の有無の違い

 冒頭の事故は、通勤に関係するささいな行為による事故でしたが、経路を逸脱した場所であったため、通勤災害と認められません。
 ケガの治療は健康保険で行われ、もし4日以上の休業があれば傷病手当金の請求ができます。
 仮に逸脱がなくて通勤災害と認定されれば、労災保険が適用され、治療費・薬代の本人負担はなく、休業となった場合は労災保険から休業給付(休業特別支給金と合わせて約8割の所得保障)が治癒するまで受けられます。

まとめ

 通勤の途中で用事を足したり、迂回したりした場合、その行為が「日常生活の必要から通勤の途中で行う必要」があり、「行為の目的達成のために必要とする最小限度の時間、距離等」であれば、通勤となり、労災保険が適用されます。

そ の 他 の 記 事

 ト ピ ッ ク ス  福利厚生費が大幅に増加 平成28年11月14日 経団連調査

 経団連の調査で、法定福利費(社会保険料など)の負担が前年比で2.0%も伸びていることが明らかとなった。
 調査は経団連企業会員の企業が主で、平均従業員数は4,583人、平均年齢は41.6歳。
 法定福利費は6年連続で増加し、現金給与総額の伸び(1.2%増)を上回って増加している。内訳をみると最も高い伸びは厚生年金保険の2.3%増であった。
 法定外福利費も前年比で2.3%の増加となっている。内訳で注目されるのは医療・健康関連のヘルスケアサポートが10.6%増加していること。ストレスチェック制度導入などの影響が考えられる。また、育児関連も前年比11.2%増加している。
 調査対象の大企業で、給与総額が伸びても、その伸び率を上回る法定福利費が負担となっていることが明確になった。法定福利費の伸び率は中小企業でも同じなので、企業規模格差も広がっているのではないだろうか。

 労務のことば ~健診と検診~

健診
 健康診断のこと
 病気であるかどうかを確かめるもの
 病気の危険因子があるかどうかをみていくもの
検診
 特定の病気を早期に発見し、早期に治療することが目的
 たとえばがん検診など

 【スタッフからひとこと】 産前を有給にするときの注意

 産休に入るのが末日と翌月1日では、一か月分の社会保険料が違います。末締めの会社で、11月25日から産休に入っても締日の月末日まで有給休暇としていると、11月の社会保険料は、免除になりません。12月から免除になります。
 11月29日まで有給休暇とし30日から産休として、1日分の欠勤控除すると、11月分の社会保険料が免除になります。
 標準報酬月額が20万円だとしたら健康保険料19,580円と厚生年金保険料36,364円で合計55,844円の社会保険料が違ってきます。

【士業による無料相談会】相談員として参加しました  業務日誌 11月○日

 弁護士会の主催による無料相談会(困りごとを何でも相談してくださいという趣旨)が行われ、相談員として初めて参加しました。退職に関する相談があるという方に弁護士と一緒に対応しました。
 長年勤めた会社で、資格取得に関することで経営者と行き違いがあったという相談でした。資格取得試験を受けに行くよう命じたつもりの会社側と、命じられていないので受けなかった相談者。トラブルとなり解雇をいいわたされてしまったといいます。解雇通知は1か月半前に出されてはいますが、相談者は納得がいきません。労働契約法では解雇は「客観的に合理的な理由と社会通念上相当な事由」がなければ無効となっていますが、小さな会社の経営者には通じません。継続して働く気持ちはなくなっていますが、納得できない思いをどうにかしたいというご相談でした。
 「救済を求めるのなら、解雇無効とか、慰謝料請求という形になるのが一般的ですが・・・」と弁護士。私はあっせんの制度の説明など、社労士としてかかわった経験を話しましたが、解決の役には立てなかったという思いが残りました。