「割増賃金の計算が間違っているという指摘を受けた・・・」
労基署の労働条件の調査に出向いたところ、思いがけず割増賃金の差額の支払いを命じられたといいます。どこに間違いがあったのでしょう。
重要ポイント
労働条件等の調査では、割増賃金の計算方法をチェックされ、不足額には支払いを命じられる。
年次有給休暇の取得を促進するよう、年次有給休暇管理台帳を作成することも指導される。
割増賃金計算の時間単価
月給で賃金が決められている人に「あなたの時給はいくらですか?」と聞いても首をかしげる人が多いのではないでしょうか?
月給の場合は月額給与を「1年間における1 か月平均所定労働時間」で割って1時間当たりの賃金を計算します。
たとえば土日と祝日、年末年始、夏季が休みだと122日が年間の休日となります。
1日の所定労働時間が8時間であれば1カ月平均所定労働時間は以下により162時間となります。
(365-122)×8=1,944時間(年間総労働時間) 1,944÷12=162時間
もし1日7時間、毎月6日休み(年間72日)であれば
(365-72)×7=2,051時間(年間総労働時間) 2,051÷12=170.9時間
あるいは1日8時間、年間休日105日であれば (365-105)×8=2,080(年間総労働時間) 2,080÷12=173.3時間
なお、週40時間労働でなければならないので、1か月平均所定労働時間の上限は173時間くらいになります。
同じ月給でも労働時間の違いで時間単価が異なり、割増賃金の計算の単価が変わることに注意が必要です。年間の休みを特定しないと1カ月平均所定労働時間が決まらず、残業単価も不正確になってしまいます。
割増賃金には3種類
割増賃金を払わなければならない場合には3 種類あります。時間外手当と休日手当それに深夜手当です。
1 日8時間、週40時間を超えたときは25%以上の割増賃金を支払わなければなりません。
法定休日(週1回)に勤務させたときは35%以上の率で計算した割増賃金を支払います。
22時から5時までの間に勤務させたときは25%以上の割増率の深夜手当を支払うことになります。
営業手当は計算の基礎に入れる?
割増賃金の計算基礎は、「通常の労働時間又は労働日の賃金」額です。
距離に比例して支給される通勤手当は割増賃金の計算基礎に含めません。
そのほか、家族手当、扶養手当、子女教育手当、別居手当、単身赴任手当、住宅手当(家賃の一定割合を支給するというような手当)、臨時の手当は含めません。
地域の物価水準を考慮した物価手当や外回りの営業職に支給する営業手当、精皆勤を奨励する皆勤手当などは除外されていません。除外されていない手当はすべて割増賃金計算に含めなければなりません。
固定残業代の注意点
「職務手当は20時間分の時間外労働割増賃金として支給する」のような固定残業手当の支払いをすることは認められていますが、気をつけなければならないことがあります。
(1)固定残業代を除いた基本給の額が示されていること
(2)固定残業代に関する労働時間数と金額の計算方法が示されていること
(3)固定残業代を超える時間外労働、休日労働及び深夜労働に対して割増賃金を追加で支払うことが明記されていること
たとえば、月の労働時間が162時間で基本給(諸手当なし)162,000円であれば時間外労働割増賃金は1,250円です。20時間の残業代は 25,000円です。
【給与辞令の記載例】
基本給162,000円、職務手当25,000円(20時間分の時間外労働割増賃金)合計187,000円 20時間を超える時間外労働があった場合は超えた時間について1時間につき1,250円を支払う。深夜労働があった場合は、25%割増の深夜労働手当を別途支払う。法定休日(1週間に1回の休日)労働には35%割増の休日労働割増賃金を支払う。
端数処理
1時間当たりの賃金や残業代を計算するときにはどうしても1円未満の端数が出てきます。端数処理については以下のような通達があります。
「1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること」
管理職と割増賃金
「課長職以上は会社の管理職として、時間外労働割増賃金を支払わない」
このようなことは認められるでしょうか。
確かに労働基準法には労働時間規制が適用されない者として「監督若しくは管理の地位にある者」と書いてあります。
「課長」「営業所長」「店長」など、管理職と思われる役職はいろいろありますが、肩書ではなく、実態により判断します。以下のことが判断基準です。
(1)経営者と一体的な立場で仕事をしているか
(2)出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていない
(3)その地位にふさわしい待遇がなされているか(定期給与ボーナスなどが一般社員より優遇されているか)
なお、深夜手当は管理監督者に対しても支払う必要があります。
賃金の時効
割増賃金の計算が間違っていたような場合、いつから訂正すればよいのでしょう。
賃金の請求権の時効については2年となっています。退職手当については5年です。
賃金計算の間違いと是正報告
冒頭の会社では、割増賃金の分母の数字が 1カ月平均の所定労働時間の数字になっていませんでした。勤勉手当を支給していましたが、勤勉に勤務したかどうかで、支給したりしなかったりする手当なので、計算基礎から除外できると思い、入れていませんでした。
計算をやり直し、差額を支払いました。
年次有給休暇の取得を促進するよう指導も受け、以下の書面を渡され改善報告を求められました。
(1)年次有給休暇管理台帳等を作成し労働者各人の有給休暇の取得状況を管理するとともに、残日数を労働者へ周知してください。
(2)年次有給休暇は、事業場の規模にかかわらず、また正社員であるか否かにかかわらず「雇い入れの日から6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した」すべての労働者に対して(請求する時期に)付与する義務がありますので留意ください。
ト ピ ッ ク ス 労働時間適正把握に関する 新ガイドライン
平成29年1月20日 厚労省
労働時間を適切に管理するようにという通達が平成13年4月6日に出ていますが、その通達が廃止され、ガイドライン(基発0120第3号 平29.1.20)となりました。
労働時間の考え方が新しく明記されました。
労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間で、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間をいう。具体的には以下は労働時間として扱うこと。
ア 業務に必要な準備行為、業務終了後の後始末の時間
イ 労働から離れることが保障されていない状態で待機している時間
ウ 参加が義務付けられている研修受講や業務に必要な学習の時間
また、自己申告制による労働時間管理の注意点が具体的になりました。
自己申告制は、労働者による正しい申告を前提として成り立つものなので、申告時間と事業場内にいた時間に乖離があるときは実態調査をし補正すること。時間外労働時間数に上限を設け、適正な申告を阻害するような措置を講じてはならないことなど。時間管理の徹底が求められます。
労務のことば ~勤務時間インターバル制度~
勤務終了から翌日の勤務開始までの間隔を一定の時間設けることで、休息時間を確保しようというもの。
EU加盟国では11時間の休息時間を確保する勤務時間インターバル制度が義務付けられている。残業で夜11時まで働いたとすると翌朝は所定の始業時刻にかかわりなく10時に出社すればよいというもの。日本でもジャパンケーブルキャスト(株)が9時間のインターバルを設けたと報道された。
【スタッフからひとこと】 傷病手当金と労災の休業補償給付の違い
傷病手当金にも労災休業補償にも3日の待期期間があります。同じ待期期間でも、傷病手当金は3日が連続していなければなりません。労災の場合は、連続している必要はありません。
同一の病気・ケガの時の支給期間は、傷病手当金では、1年6ヶ月と限度がありますが、労災の休業補償では、治るまでです。労災は、私傷病とは異なる性質の為、労働者をより保護する仕組みになっています。
【 キャリアコンサルティングを受けてもらいました 】 業務日誌 2月○日
セルフ・キャリアドック制度を厚労省は押し進めています。制度を導入すると50万円(大企業は25万円)のキャリア形成促進助成金(制度導入コース)がもらえます。
耳慣れないセルフ・キャリアドック制度、どのようなものなのでしょう。
従業員に対し、キャリアコンサルタントがジョブ・カードを活用したキャリアコンサルティング(従業員が主体的にキャリア・プラン(働き方や職業能力開発の目標や計画)を考え、これに基づいて、働こうとする意欲を高めるための相談)を定期的に実施するものです。(厚労省パンフレットより)
キャリアコンサルタントは平成28年から国家資格となり、一定の経験を持ち試験に合格した人しかキャリアコンサルタントの名称を名乗れないものとなっています。
今回お客様企業の従業員が、初めてキャリアコンサルタントのコンサルティングを受けました。コンサルティングではジョブカードを作成しますが、ジョブカードは労働者本人が管理するもので、コンサルタントや企業の人事担当者がコピー等を保管することはできないものです。私も初めて知りました。・・・・・制度の普及には時間がかかりそうです。・・・・・