研修時間は労働時間?

 

「研修時間は労働時間になるのでしょうか?」

研修というだけでは労働時間かどうか決められません。その判断基準は?

重要ポイント

 研修時間が労働時間かどうかは使用者の指示の有無が判断基準となる。指示は明示されたものだけでなく、黙示の指示も含まれる。
 平成29年1月20日に出た新しい「労働時間の考え方」のガイドラインでは、参加が義務付けられている研修や使用者の指示により業務上の必要があって行った学習の時間は労働時間として取り扱うことと明記された。

賃金と労働時間

 賃金と労働時間は働く人にとって二つの重要な労働条件ですが、法的には大きな違いがあります。
 賃金は最低賃金以上であれば額の決定について法の規制はありませんが、労働時間・休日・休暇は労働基準法の規制を受ける労働条件です。(「労働法」菅野和夫 弘文堂)

労働時間の原則

  労働基準法は以下のように法定労働時間を定めています。
 「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」(労基法第32条)

 労働基準法制定当時は、1週間の労働時間は48時間でした。その後段階的な短縮を経て、平成9年(1997年)完全に週40時間になっています。(常時10人未満の労働者を使用する商業、映画演劇業、保健衛生業、接客業については、1週44時間・1日8時間が認められています)
 1日については法制定当時から8時間のまま変わっていません。

労働時間とは実労働時間のこと

 労働時間の長さについては「週40時間を超えて、労働させてはならない」と厳しい規制があります。労働時間とは会社にいる時間ではなく、実際に労働者が業務に従事した時間(実労働時間)です。
 労働時間をきちんと把握するようにという行政指導は「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日付基発第339号、通称46通達)をもとに行われてきました。

長時間労働規制の動き

 長時間労働対策は、第12次労働災害防止計画(平成25年度~平成29年度)の重点目標の一つで、継続的に労基署の指導項目となっています。
 また、平成26年11月、「過労死等防止対策推進法」が成立し、平成27年4月には、東京労働局と大阪労働局に「過重労働撲滅特別対策班」(かとく)が新設されました。
 その後平成27年7月24日、「過労死等の防止のための対策に関する大綱」が閣議決定されました。
 さらに平成28年12月26日には、「『過労死等ゼロ』緊急対策」が公表され、平成29年1月20日、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」が公表され、46通達は廃止となりました。

労働時間の考え方

 新ガイドラインでは労働時間の考え方の項目が次のように追加されました。
 「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいい、使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たる」として、次のアからウを労働時間として扱わなければならないとしています。

使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
使用者の指示があった場合には業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
参加することが業務上義務付けられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

労働時間の新ガイドラインの考え方

 研修や教育訓練の受講時間が労働時間になるのは、会社の指示があった場合だけでなく、受けざるを得ないような暗黙の指示があった場合も含まれるということになります。

自己申告制は例外的に認められる

 自己申告制により労働時間を管理することについては今まで以上に注意が必要となり、「実際に労働時間を管理する者に対して、自己申告制の適正な運用を含め、ガイドラインに従い講ずべき措置について十分な説明を行うこと」が求められます。
 「入退場記録やパソコンの使用時間の記録など、事業場内にいた時間のわかるデータを有している場合に、労働者からの自己申告により把握した労働時間との間に著しい乖離が生じているときには、実態調査を実施し、所要の労働時間の補正をすること」が必要とされています。
 さらには「36協定による時間外労働の時間数を超えて労働しているにもかかわらず、記録上これを守っているようにすることが、実際に労働時間を管理する者や労働者等において慣習的に行われていないかについても確認すること」が求められます。

賃金台帳の調製

 労働基準法108条は賃金台帳を作成し3年間保存することを求め、施行規則で労働者ごとに労働日数、労働時間数、休日労働時間数、時間外労働時間数、深夜労働時間数を記入することを求めています。
 このことは新ガイドラインにも記載されていて、労働時間数の適正な把握に加え、正確な記録を徹底することがますます求められることになりそうです。

新ガイドラインと労働時間

 新ガイドラインに書かれていることは判例を踏まえたもので、特段新しい解釈が加わったものはないようですが、黙示の指示を労働時間として具体例を挙げており、今後労使でトラブルとなったときには労働時間の判断において使用者に不利になることが多くなると思われます。
 終業時刻後に会社に残っている人には退社するよう具体的に指示しなければ、労働時間といわれても反論できなくなるでしょう。

新人研修は労働時間

 研修は参加が強制されていれば労働時間です。新人研修は参加を強制していますから労働時間です。 新人には研修の意図をしっかり伝え、今後の業務にいかしてもらいましょう。

そ の 他 の 記 事

 ト ピ ッ ク ス 育児休業制度がまた改正になります  平成29年10月1日施行 厚労省

 平成29年1月1日に育児・介護休業法が改正があったばかりですが、また10月から、以下のような改正が予定されています。
 労働者は、その養育する1歳6か月から2歳に達するまでの子について、次のいずれにも該当する場合に限り、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができるものとすること。
(1)当該申出に係る子について、当該労働者又はその配偶者が、当該子の1歳6か月に達する日(以下「1歳6か月到達日」という。)において育児休業をしている場合
(2)当該子の1歳6か月到達日後の期間について休業することが雇用の継続のために特に必要と認められる場合
「雇用の継続に特に必要と認められる場合」とは、現行の規定を踏まえ、「保育所等に入れない等の場合」に限定されると思われます。
 この改正に合わせて育児休業給付金も子が最長2歳に達するまで延長されることになります。

 労務のことば  ~週所定労働日が確定していないパートの年休~

 サービス業の短時間労働者には、シフトが始まる前に次の期間の労働日や労働時間を特定する労働時間の決め方があり、所定労働日が決まっていないことがあります。
 所定労働日が決まっていない場合の年次有給休暇については「雇い入れの日から起算して6か月経過後に付与される年次有給休暇の日数については過去6カ月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして差支えない」ことになっています。(通達)

 【スタッフからひとこと】労災指定病院と労災指定病院以外ではどのような違いが?

 被災労働者は、労災指定病院では無料で診療、薬剤の支給を受けることができます。(健康保険証は使わない、労災の所定の書類を提出する)
労災指定病院でない場合は、一旦費用を全額自己負担しますが、領収書を添えて手続きをすると返還されます。
 どちらにしても、最終的には費用の負担はありません。

【 こんなことがありました・・・ 】    業務日誌 3月

 〇日 「年齢の違う社員同士のコミュニケーションをよくしたい。社会保険や年金についても教えてもらいたい」(製造業、女性が8割) こんなご要望を受けて社内の研修講師をしました。
 グループになってもらって、メンバーを褒めて認めるという体験型の研修をしたところ、大変好評でした。
 □日 「助成金が入りました! 年度末なので助かりました」  男性が育児休業を5日取得したので、両立支援助成金の申請をした会社からの連絡。  新潟労働局に2月22日に申請したところ、1カ月もたたない3月17日に入金でした。こんなに早い助成金の入金は珍しいことです。
 △日 「退職することになりました。本来であれば直接会ってご挨拶すべきところですが・・・」 退職する女性社員からのメール。  短いお付き合いでしたが、丁寧な挨拶の文章のメールがとても心に響きました。
 ◇日 「わかりやすくためになる研修でした。また企画してもらいたい」社内研修後のアンケート。 テーマは「繰り返された電通事件に学ぶこれからの労働時間管理」。36協定について質問をしたところ、よくわからないという受講者もいて、周知することの難しさ、研修の重要さを確認しました。