解雇のきまりあれこれ

 解雇のニュースが連日伝えられています。
いきなり解雇され、寮を立ち退くように言われた・・・などの報道もあります。

 多くの人は労働して賃金を得て生活しています。自分だけでなく、家族を養っています。
解雇とは、使用者による一方的な労働契約の解消のこと。そのとき、法律や制度はどのようにして労働者を守るのでしょうか。

081226.gif

■ 重要ポイント

○ 解雇してはならない場合がある。
○ 解雇するには予告かそれに代わる手当の支払が必要。
○ 期間の定めのある労働契約の「途中解約」はむずかしい。
○ 「解雇」が理由の場合、失業給付は有利に受けられる。

 

◆ 仕事中の怪我で休んでいるとき

労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、療養のために休業する期間およびその後30日間は解雇してはいけません。(労基法第19条)
労働者本人の不注意が原因だったということもあるでしょうが、誰の過失かを問わず、業務上であればすべて解雇は制限されます。

 

◆ 産前産後の女性の休業期間

まもなく出産する、あるいは産後まだ日が経っていない労働者を解雇することはできません。
労基法第65条により、6週間以内に出産する女性が休業を請求したらその女性を働かせてはならず、また、原則として産後8週間を経過しない女性を就業させてはなりませんが、解雇もこの規定を受け、産前産後の休業期間及びその後30日間は解雇が制限されます。

 

◆ その他の解雇制限

労基法違反等を監督機関に申告したことを理由として、解雇その他不利益な取り扱いをしてはなりません(労基法104条)。また、育児休業法は育児休業、介護休業または看護休暇をとったことを理由として解雇などの不利益な取り扱いをしてはならないと定めています。
※育児・介護休業法の解雇制限は、それ以外の理由(会社の社会的信用を傷つける行為があったなど)であれば解雇することができますが、労基法の〔業務災害、産前産後関係の解雇制限〕は、いかなる理由があっても解雇はだめという規定です。

 

◆ 解雇の手続き

使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならず、30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。(労基法第20条)

 

◆ 期間の定めのある契約

有期労働契約の期間途中での解雇は、やむをえない事由でなければできません。
労働契約法第17条は【使用者は、期間の定めのある労働契約解消について、やむをえない事由がある場合でなければ、その契約期間が満了するまでの間において、労働者を解雇することはできない】と定めています。やむをえない事由がある場合でも、それが使用者の過失によるのであれば、使用者は期間雇用者に対して損害を賠償する責任があります。

 

◆ 解雇と失業給付

失業すると雇用保険の基本手当(失業給付)を受けることができますが、倒産等により解雇され再就職の準備をする時間的余裕なく離職を余儀なくされた人は【特定受給資格者】とされ、給付の面で優遇されます。
◎特定受給資格者は所定給付日数が多い
特定受給資格者は、自己都合退職で離職した人より所定給付日数が多くなっています。たとえば、45歳以上60歳未満で10年以上の被保険者期間があった場合、所定給付日数は270日です(一般の離職は120日)。
◎特定受給資格者は給付制限期間がない
自己都合退職では、待期7日と給付制限(3ヶ月)を過ぎないと基本手当てがもらえませんが、特定受給資格者(解雇された場合)は給付制限期間がなく、早く基本手当てがもらえます。
◎ 特定受給資格者は受給資格要件で有利
平成19年10月からの改正で、基本手当を受けるには原則として離職前2年間に12ヶ月の被保険者期間が必要ですが、「解雇」という予見が困難な失業への配慮から、特定受給資格者は被保険者期間が離職前1年間に6ヶ月あれば受給資格をえられることになりました。

 

◆ 労働関係法は機能を果たしているか

労働基準法第1条は次のように定めています。
【労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない】。
解雇制限、解雇手続きは必ず守らなければならないことのひとつです。最低の基準を定めたのが労基法なのですから。
雇用保険制度は労働者が失業したときなどに必要な給付を行い、労働者の生活および雇用の安定を図るとともに、求職活動を支援することが目的です。
経済状況の悪化で解雇という事態に直面する人が増えている今、雇用保険の制度が人たるに値する生活および雇用の安定という目的をきちんと果たしているものであるか、考え直してみる必要があるように思えます。
一度就職したら生涯その会社で勤め上げることができなくなっています。誰でも一生に何回かは失業を経験するのだという視点で雇用保険もより充実した制度にしていかなければならないのではないでしょうか。

     その他の情報(詳しくはPDFをご覧ください。)

■ ト ピ ッ ク ス

◆ 雇用調整助成金の拡充 平成20年12月19日 厚労省発表

事業活動の縮小を余儀なくされたにもかかわらず、雇用する労働者を休業、教育訓練または出向を行うことにより雇用維持に努力する事業主を支援するため、雇用調整助成金が拡充された。
①生産量要件の緩和    最近6か月の月平均値:前年同期に比べ10%以上減少   ⇒最近3か月の月平均値:前年同期に比べ減少 ②雇用量要件の緩和  (従前)最近6か月の月平均値が前年同期に比べ1増加していないこと  (緩和後)最近3か月間の月平均値が前年同期に比べ増加していないこと ③助成率も3分の2から5分の4に引き上げられた。 休業や出向を行う前にハローワークに実施計画の届出が必要となる。 休業実施計画届は実施日前2週間の提出が原則。休業してからではもらえない。

■ シリーズ 年 金

◆ ~ 国民年金の【高齢任意加入】加入とは ~

国民年金の加入が義務付けられているのは60歳までですが、65歳になったときに加入年数が足りなくて老齢基礎年金を受けられない人は、65歳から70歳になるまでの間国民年金に加入できます。これを高齢任意加入といいます。
高齢任意加入した人が、老齢基礎年金の受給資格を満たすと、その時点で高齢任意加入をやめることになります。

 

■ 労務の単語マメ辞典

◆ 「監督または管理の地位にある者

労働基準法第41条 この章、第六章及び第六章ので定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
一 (略)
二 事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者

労基法で「監督または管理の地位にある者」とは、会社が就業規則等で定る「管理職」のことではなく、事業主と利害を一にして労働者を指揮監督し労務を管理する者を指しています。この混同に起因して「名ばかり管理職」が問題になりました。「管理職」の処遇に問題はないか、見直しはおすみでしょうか?

 

■ 質問に答えて

◆ 所定休日が全部休めない・・・ ◆

「1か月単位の変形労働時間制をとっている。1日の労働時間は7.5時間で、30日の月の休みは8日、31日の月の休みは9日としている。9日の休みがとれないときがあるが、なるべく近いうちに振替休日をとるように指導して、取れなかった休日(出勤)に対する割増賃金は支払っていない。取れなかった休日がたまっている人もいる。どうすればよいだろうか・・・」

労働基準法が要求する「週40時間」を満足するために、31日の月の所定労働時間の上限は177.14・・時間。現在1日7.5時間で22日働いている大の月の所定労働時間は165時間で12時間の余裕があるので、大の月(31日)の所定労働日を1日増やし(=休日を1日減らし)ても、労働基準法上問題はない。就業規則で「所定休日」としている日に反対給付なく出勤させていることが問題なのだから、例えば〔大の月の所定休日を1日減らして8日とする。(ただし)その日に休んでも欠勤とせず有給扱いとする〕よう就業規則を変更しては・・・とアドバイス
労働者にとって不利益変更とならないためにどのような措置が必要か、会社ごとの事情がある中でうまく合意形成できるかどうかがポイントになります。