ジョブ型正社員のススメ

★★ ジョブ型正社員のススメ ★★

「時給の契約だけれど、社会保険にも加入しているフルタイマーは正社員で
しょうか?」

「正社員は月給の社員のことですか?」

このような質問をいただくことがあります。正社員って何でしょう?

国は「ジョブ型正社員」の活用を推し進めようとしています。

■  重要ポイント ────────────────────────

正社員だからパートだからという雇用区分に応じてではなく、実際にやってい
る仕事の内容や責任の程度、その評価に応じて給与や賞与を払うことが求めら
れるようになっています。

■ アルバイトに賞与の支払い命じる判決 ────────────────

大阪医科薬科大の元アルバイト職員(年間を通してフルタイムで勤務してい
る)の50代女性が、正社員らと同じ仕事なのに賞与がなく、待遇格差は違法と
して差額の支給を求めた訴訟で、大阪高裁は「アルバイト職員に賞与がないの
は不合理」だと指摘、約109万円の支給を命じた。(2019年2月15日)

■ 臨時職員の基本給が正規の半分なのは不合理 ──────────────

賞与に差があるのは労働契約法違反だと大学側に損害賠償を求めたところ、福岡
高裁は「待遇の差は不合理で違法」と判断、大学側に約113万円(法改正によ
って非正規労働者との不合理な労働条件が禁じられた2013年4月以降、月額3万
円)の支払いを命じた。(2018年11月29日)

■ 契約社員に手当なしは不合理 ──────────────────────

正社員と仕事が同じなのに手当や賞与が支払われないのは違法だとして、井関
農機(松山市)のグループ会社2社の契約社員5人が会社側に差額の支給を求め
た訴訟で、高松高裁は、5人の業務が正社員と同様だったと認定、住宅手当や
家族手当を契約社員に支払わないのは不合理な待遇格差にあたるとし、手当の
不支給を違法と認め、5人分の約300万円の支払いを命じた。

賞与の支払いについては正社員と契約社員で職務責任の範囲に差があり、支給
しないのは違法ではないとした。(2019年7月8日)

■ 契約社員に退職金なしは不合理 ─────────────────────

駅売店の契約社員らが、同業務の正社員との待遇格差は不当として、会社(メ
トロコマース)に差額賃金等を求めた。東京高裁は勤続10年の2人に退職金の
「功労報償的な部分」を支給しないのは不合理と判断、正社員の退職金の25%
の支払いを命じた。(2019年2月20日)

■ 働き方改革で求められていること ─────────────────────

今までの雇用ルールでは違和感を感じる判決が相次いでいます。

労働契約法20条は有期契約労働者と無期契約労働者の間での不合理な労働条件
の格差を禁止しています。裁判では不合理な待遇差とは何かが問われました。

同じ仕事をしているのにアルバイトだから、臨時社員だからというだけで処遇
に大きな差をつけている会社には「不合理で違法」という裁判所の判決が下さ
れています。

■ いわゆる正社員とは ────────────────────────

法律上、正社員の定義というものはありません。

一般的に正社員とは次のような社員であるとされています。

(1)労働契約の期間の定めがない。(定年までの雇用)

(2)所定労働時間がフルタイムであり、時間外労働がある。

(3)勤務地や職務に限定がない。

(4)勤続年数に応じ賃金が上がり(年功賃金)昇進・昇格、教育研修の機会
がある。

■ 日本独特の正社員の特徴 ────────────────────────

正社員は残業が当たり前、転勤に応じなければならず、様々な異なる職務に当
たることが求められてきました。労働時間、勤務地それに職務について無限定
だともいわれます。

無限定な正社員とは、主に男性で、女性は家事に専念し、家庭を支えるという
前提がありました。

無限定な正社員はよほどのことがない限りは解雇されず、長期間の安定的な雇
用が保障されていました。新卒一括採用、終身雇用も特徴です。

■ 無限定な働き方の見直し ────────────────────────

健康を害するような長時間の残業の規制は、労働基準法の改正ですでに始まっ
ています。
正社員でも恒常的な長時間労働があるような状態は是正されていくでしょう。

「職務や勤務地が無限定な働き方は、我が国の雇用慣行に過ぎず、何らか
の法規制に基づいているわけではない。・・・多様な価値観や背景を持った国
内外の優秀な人材の獲得や早期選抜ができない、本人の希望する職務・役割と
与えられる仕事とのミスマッチがモチベーションを損ない、早期離職の原因と
なっている」ことが指摘されるようになっています。

(2019年5月20日 規制改革会議)

■ ジョブ型正社員とは ────────────────────────

日本型の正社員の雇用は、職務ではなく就社型(メンバーシップ型)であると
いわれることと対比的に、ジョブ型正社員(勤務地限定正社員、職務限定正社
員等)という言葉で、新しい雇用ルールの議論が始まっています。

ジョブ型正社員は、職務を限定して専門性を追求することや、転勤を心配せず
に地域に密着して働くことがしやすい社員区分ともいえます。

■ 長期安定雇用のルール ────────────────────────

問題が多いと指摘されるようになった日本型の正社員ですが、年功的な賃金
カーブで賃金が安定し、強い雇用保障がありました。退職金制度も法的な支払
い義務のあるものではありませんが、多くの会社が採用し、雇用の流動化を防
いできました。

「正社員は解雇が難しい」という安心感があったので、無限定な正社員が機能
したという側面があります。

■ ジョブ型社員への期待 ────────────────────────

「正社員と非正規社員といった両極端な働き方のモデルを見直し、ジョブ型社
員(多様な正社員)のモデルを確立する」あるいは

「多様な正社員の普及促進は、それ自体が目的ではなく、非正規雇用の労働者
のキャリア・アップやいわゆる正社員のワーク・ライフ・バランスの実現、企
業による優秀な人材の確保・定着、これらによる日本全体の労働力の質の向上
と生産性向上等を実現するための方策である」(有識者懇談会報告)

など、ジョブ型正社員が社会に定着していくことが期待されています。

同一労働同一賃金に関する法改正(いわゆる「パート・有期法」)が2020年
4月1日に施行されます。(中小事業主は2021年4月1日施行)