12月のニュースレターをUPしました

◆始末書をもらうとき◆

「私は一生懸命やりました。いったい、どこがどのように悪かったのでしょう。具体的に教えてください。今頃そんなことを言われても…」

 ある従業員の行動についてお客様から苦情が相次いだので、本人を呼んで質したときの言葉でした。まさかこのように反論されるとは。感覚の違いでは組織運営上、済まされません。

 重要ポイント

 従業員の行動について、お客様からの苦情や、社内で不適切な行為があったときは、ただちに、少なくともその日の内に始末書を書いてもらいましょう。始末書は、不始末の原因を考えてもらい、2度と同様のことが起きないよう反省し、行動を改めてもらうことが目的です。

 始末書は懲戒の一種

 多くの会社の就業規則には罰則の規定があると思います。
 会社のトラックを許可なく私用に使った、飲酒運転をした、異性の同僚をしつこく食事に誘った…このような従業員の行為に、一定の罰を科して反省を求めるという処分が必要です。
 罰則については懲戒あるいは制裁規定として就業規則に条文化されていると思います。

 始末書は軽い懲戒

 懲戒というと「懲戒解雇」という言葉を思い浮かべる方も多いと思います。
 懲戒解雇は一番程度の重い罰で、解雇予告も解雇予告手当の支払いもせずに即時に解雇する処分としていることが多いと思います。さらに退職金を支給しないとしていることがほとんどです。
 始末書の提出は、譴責(けんせき)処分として行われるもので、労働契約が続くことを前提とする処分です。行動を振り返り、これから改善してもらうための手続きともいえます。

 始末書の内容

 従業員本人がさほど不適切な行動と自覚していない不始末もあるのですから、上司は「改善指導記録」を書いて、その苦情を伝えるのがよいでしょう。
 注意を喚起して、改善指導し、本人には反省を求め、始末書を書いてもらいます。
 会社が期待する行動と、本人の行動のずれも、書面に書くということで明らかになり、二度と同様の不始末を起こさないことが期待されます。始末書には日付を入れ、あて先は代表取締役とします。
 迷惑をかけたことを詫びる文章を入れ、再発が無いよう、「行動を改める」と誓約してもらいます。不始末の発生日、不適切だった行為の内容と原因・経緯を簡潔に記載してもらいます。会社に与えた損害、お客様に与えたダメージ、責任の取り方(賞与を減額されても致し方ないと考えているなど)も書いてもらうことをお勧めします。再発防止策を具体的に記載してもらい、署名させます。

 始末書を書いてくれないとき

 始末書は軽いとはいえ懲戒処分の一つです。本人にもっともな事情や言い分があって、始末書は書けないと提出を拒否されることも考えられます。
 始末書の提出は強制できません。
 そのような時は顛末書(てんまつしょ)の提出を求めましょう。顛末書は、ミスや不適切な行為によって、会社やお客様に損害を与えたときに、状況を報告する文書のことです。顛末書には事故の発生日時、場所、状況、原因、事後処置、今後の対策などを記載してもらいます。事故を説明する報告であって、始末書のようにお詫びや反省の言葉はないものですから、業務命令として提出を求めることができます。

 書面にすることの重要性

 注意したことを「改善指導記録」で書面に残し、「始末書」で、反省した記録を残すことは、イザとなったとき重要な証拠となります。
 1回くらい、本人にも事情があるかもしれないとアイマイにしておいたり、反省しているようだからと放ておくと、冒頭のように、「私は一生懸命にやりました。そのとき注意も受けませんでした。完璧ではなかったかもしれませんが、そこは人間ですから」と反論されてしまいます。

 何枚も始末書がたまると

 お客様からのクレームが一人の従業員に集中する、うっかりミスが多い、遅刻が頻繁…などのとき、始末書が何枚もということがあるでしょう。小さな不始末が何回も繰り返されたとしても、判例では「解雇」が正当であると認められないことが多いようです。
 ただ、具体的に注意し、反省を促したことが「改善指導記録」や「始末書」で確認でき、本人に改善の見込みがないと判断されるのであれば、「従業員としての適格性がない」という解雇事由が認められやすくなると考えられます。

 在職を前提とする処分のいろいろ

 始末書は譴責処分として求める書類で在職を前提としています。従業員としての労働契約の継続を前提にした処分には、減給、出勤停止、降職・降格などがあります。
 従業員の不注意な行為で会社が損害を被ったような場合で、賃金カットしたいようなケースでも、減給することについては、制限があります。
 懲戒処分として減給する場合、1回の事案あたりの額は平均賃金の1日分の半額、一賃金支払期に発生した複数の事案の減額は、その賃金支払い期間における賃金総額の10分の 1を超えることはできません。(労基法第91条)

 従業員でなくなる処分のいろいろ

 懲戒解雇は一番重い罰則で、従業員としての身分を失うことですが、実務的には懲戒解雇処分はよほどのことがない限り難しいと考えられています。
 懲戒解雇相当の事案が発生しても、本人の将来を考慮して依願退職を求めて解雇するという、諭旨解雇という処分があります。

 公平な処分を

 「Aさんには始末書を書かせたのに、Bさんには何もしなかった」では不公平です。不適切な行動には、すぐその場で始末書を書いてもらいましょう。問題が発生したそのときは責任を認めることが多いものですが、時間がたつと、責任をあいまいにしたり、否定することも起きます。また正確な事実がわかりにくくなってしまいます。
 「申し訳ありません」という口先だけの反省のみの始末書ではなく、いつどこで何が原因でどのようなことが起きて会社に迷惑をかけたのか、再発防止のため今後どうするのか中身のある始末書をきちんと書いてもらいましょう。

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